時代に合わない制度を変える—美容師制度に関する提言
先日、自民党有志の勉強会で議論を重ねて、美容師制度に関する提言を河野太郎規制改革・行革改革担当大臣に申し入れました。美容師法 1957年(昭和32年)6月3日に公布された法律で(ちなみに理容師法は1947年(昭和22年)) 、当時のスタイルや技術、社会事情がベースとなっています。美容師はこの美容師法に基づき厚生労働大臣の免許を得なければならないのですが、その実技試験には現在、美容院でオーダーする人が極めて少ない技術が必須になっていたり、一方で、多くの人がやりたい技術が授業や試験に設けられていない、という現状があります。
例えば、実技試験にあるオールウェーブセッティングは、1940年代後半以降に人気があったスタイルのようで、戦後を舞台にしたドラマで見たことがあるような気がします。一方で、カラーリングやマツエクなど、最近人気の技術には試験や授業のプログラムで対応していません。
https://www.e-revo.co.jp/hairdresser-test-38-biyou/ より
時代に合わない制度を改正することで、美容師さんのクリエイティビティや働き方はもちろん、その施術を受ける私たちにも恩恵があるように、制度の改正を申し入れたものです。
このように、新しい技術やライフスタイルに合わない制度は、他にもあると認識しています。散見する課題を一つ一つ解決して、一人一人がフェアに活躍できる社会を目指してまいります。
提言の全文はこちらです。
有志勉強会による美容師制度に関する提言
令和3年5月24日(月)
自民党 美容サロンに関する議員勉強会
全国に25万店舗超ある美容室で54万人以上の美容師が働いている。こうした美容室はコロナ禍での欠かせない生活インフラを担っており、ファッションや髪型の流行が移り変わる中にあっても即戦力となる美容師の育成が喫緊の課題である。日本の美容師の技術・接遇は世界トップレベルであるものの、技術者デビューまで例えば英国の2.5倍の時間を要するとの指摘があった。更に、官民挙げて取り組んでいるクールジャパンの根幹をなすという点においても、美容業界への支援は欠かせない。同時に、教育課程の改革や働き方改革を通じて、少子化の下でも美容業界を志す学生の確保にも努めなければならない。こうした観点から、以下の通り、具体的な提言を申し入れる。
① 美容師国家試験の改革
オールウェーブセッティングはじめ、実際にはサロンで施されることのない技術が実技試験の科目となっており、美容専門学校では、試験に合格するために数百時間をかけて学生にこうした技術を指導している。結果として、カラーリング、接客や経営など実践に役立つ技術の授業を設けられていない。更に、まつ毛エクステンションは身体への危険を伴う施術であり、トラブル回避のため美容師資格が必要とされるが、国家試験の実技科目に入っておらず、授業では教えない美容専門学校も少なくない。
日本美容サロン協議会(JABS)のアンケート調査(N=387)によると、「実技試験のうち今は使っていない技術がる」と答えた現役美容師が約98%に上り、そのうち、オールウェーブセッティングが大半を占めている。
(※)実技試験は第一課題「カッティング」、第二課題「セッティング」で構成される。このうち、「セッティング」には「ワインディング」と「オールウェーブセッティング」の2種類がある。
ワインディングにおける巻き方など試験内容の見直しも行われているものの、政府は、上記の問題意識に沿って、今の時代に合った美容人材の育成に向けた美容師国家試験の抜本的な見直しを早急に着手すべき。加えて、規制改革の一環で管理美容師の研修内容から経営関連の科目が削られスリム化された。卒後研修の充実などにより、独立を志す美容師が意識的に経営を学ぶ機会を設けるべきである。
② 実践的な実務研修制度の創設
美容師の実地修練制度(いわゆるインターンシップ制度)は当時は低賃金で徒弟制に近い厳しい労働環境に置かれているとの批判があり、平成7年の美容師制度改正で養成施設の期間が1年から2年とされるに伴い廃止された。代わりに、養成施設の判断で年間60時間内で実務実習を行うことが可能とされた。
これにより、仮に美容専門学生が美容室で働けたとしても、受付やフロア掃除程度しか携わることができず、他業態でアルバイトしているのが現状。しかし、資格取得の前に美容室でその他の補助業務(シャンプー&ドライ、ほぐし、カラー補助等)に携わることができれば、美容学生の意欲向上や技能習得につながるのみならず、学生と美容室の就職後のミスマッチを未然に防ぐことも可能となる。
インターンシップ廃止時に懸念された点(厳しい労働環境に置かれ学業に支障が生じるおそれ)に十分配慮しつつ、現行の資格制度の趣旨を損なわず、かつ顧客の安全性を担保できる範囲内で、美容学生が仕事をしながら実践的に技能を習得できる仕組みを新たに創設すべき。それと並行して、現在使い勝手が悪いとされている実務実習制度の改善も検討すべきである。
③ 外国人美容師に関する就労特区の支援
外国人が日本の養成施設を卒業し資格を取得しても就労できず、実践的な技能を習得できないとの課題がかねてより指摘されてきた。本勉強会でも議論を重ね、東京と大阪で外国人美容師の就労に関する国家戦略特区が立ち上がることが決まった。我が国で技能を習得した外国人が海外で活躍することで、ヘアメイクが日本のクールジャパン戦略の根幹をなしうるよう、国家戦略特区の来年の開始に向けて政府は万全を期すべきである。
④ 美容師の働き方改革の推進
美容業界では通常勤務に加えて自主的に行われている教育時間もあり、長時間にわたり職場に拘束される実態がある。我が国を挙げて働き方改革を推進しており、卒業後に即戦力となる実践的な教育課程及び国家試験制度が求められるほか、労働生産性の向上により美容室の経営との両立を図りつつ、就職後も美容師の長時間労働を是正する方策を政府は支援すべきである。同様に労働環境改善の観点から、社会保険の加入の促進に向けた業界の取り組みを政府は後押しすべきである。
⑤ 美容室のコロナ対応への支援
政府が不要不急の外出を控えるよう要請する中で、減収を余儀なくされる美容室が増えている。JABSのアンケート調査(N=484)によると、昨年下期は6割以上の美容室が売上減となっている。また、国もしくは自治体の経済支援策を5割近くが活用できていないとの結果も出ている。
こうした点を踏まえ、生活インフラを支える美容室・美容師への経済支援を充実させていくと同時に事業者への周知に努めるべきである。また、美容室がクラスターの発生を防ぎながら営業活動を継続できる方策についても政府は支援すべきである。
本勉強会では多店舗展開の美容サロンとそこで働く美容師を中心に議論を重ねてきたが、美容室の営業形態は地域によって事業規模によって様々である。したがって、政府は幅広い関係者に丁寧に意見を聴取しながら本提言の議論を進めていくことを期待したい。
以上
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