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提言全文:「スタートアップ育成5か年計画」の実現に向けた中間提言

「スタートアップ育成5か年計画」の実現に向けた中間提言

 (「新しい資本主義実行計画 2023(仮称)」に盛り込むべき事項) 

令和5年3月28日 

新しい資本主義実行本部 

スタートアップ政策に関する小委員会

 1.総論 

「明日への希望が持てる社会」の実現に向けて、スタートアップ育成がその鍵である。昨今の世界の社会・経済情勢の急速な変化により、スタートアップを巡る環境は 厳しさを増しており、スタートアップへの政策的対応の重要性は一段と増している。 

新しい資本主義実行本部では昨年 11 月に「スタートアップ育成5か年計画に向けた提言」をまとめ、政府ではこれを受けて「スタートアップ育成5か年計画」が策定された。 

同計画では、スタートアップへの投資額を「5年後の 2027 年度に 10 倍を超える規模(10兆円規模)」とする目標を掲げている。その実現のためには、同計画の初期に、 スタートアップ・エコシステムの育成に不可欠な要素の法律・税制等の制度面での 対応が急務である。特に、ストックオプション(SO)制度は、スタートアップでの人材獲得及び資金調達の基盤となる制度であり、早急な制度整備が求められる。

 当委員会では、有識者へのヒアリングを通じて上記計画の具体化に向けた政策 検討を進めてきた。本提言では、特に SO 環境整備に関する具体的な内容を整理し、 提言として取りまとめた。 

SO 環境整備は複数省庁の法令・税制に跨ることから、政府一丸となった取り組 みが必須である。本提言の各項目を「新しい資本主義実行計画 2023(仮称)」及び 「経済財政運営と改革の基本方針 2023」に盛り込むとともに、本提言の早期実現を求める。 

2.提言: ストックオプション(SO)環境整備の早期実現 

  1. ストックオプション(SO)プールの日本での実現に向けた会社法改正  
  • 株主総会から取締役会への委任内容について、新株予約権の権利行使の価額や権利行使期間等も含めることができるよう会社法を改正すること(会社法第 239 条第1項第1号関係)。 

 ※上記改正内容は、募集新株予約権の発行数の上限に係る決議、すなわち既存株式の希薄化に繋がる内容を 含むものでない。  

  • 新株予約権の発行に係る募集事項の決定の委任について、株主総会から取締役会への委任決議の有効期限が現行では「一年以内」となっているところ、この制約を撤廃すること(会社法第 239 条第3項関係)。 
  • 新株予約権の発行上限を決める際には株主総会の議決が必要となるが、実開催を行わずに決議があったものとみなすためには議決権を有する株主全員の書面等による意思表示が必要となっており、機動性に欠けるとの指摘がある。このため、例えば、議決権を有する株主のうち決議を行うのに足る株主の書面等による意思表示によって株主総会の決議があったものとみなすことができることとするなど、必要な検討を行うこと。 

※米国では、会社法(デラウェア州)上 SO の内容を取締役会で決定できることを前提に、税法上の税制適格 SO (Incentive Stock Option)の要件として株主総会によって SO の発行上限等の plan(SOプール)を承認すること とされているが、最大で 10 年間はその承認が有効であり、また SO の権利行使価額を含めた幅広い事項を取 締役会で決定することができるため、機動的に SO 付与することができる。また、株主総会の書面決議については、株主の全員の同意書を要しないため、投資家との間の契約で設定される SO プールと連動する形で機動的に SO 発行の上限を設定することができる。 

  1. 税制適格ストックオプション(SO)の制度見直し  
  • 税制適格 SO の株式保管委託要件が M&A 等の場面において制約になっている 一方で、非公開会社では会社法の制約によって株式に譲渡制限が付されていること、また発行会社及び SO 付与対象者によって税務処理が行われていることに着目し、非公開会社における税制適格 SO における株式保管委託要件を撤廃すること(租税特別措置法第 29 条の 2 第 1 項第 6 号及びその他関連規定関係)。 

※非公開会社の株式は譲渡制限が付されており、株式の発行や譲渡、新株予約権の行使による株式の交付等 の、株式や新株予約権の異動は株主名簿や新株予約権者名簿によって管理されている。また発行会社による 税務署への所要の調書提出や、株主による税務署への確定申告の手続きが行われている。  

  • 社外高度人材への税制適格 SO 付与のためには、一定の要件を満たすスタートアップに限定され、かつ中小企業等経営強化法による計画認定が必要となるが、 この認定制度について調査を行った上で、認定を経ることなく税制適格 SO の付与を可能とするよう検討を行うこと(租税特別措置法第 29 条の 2 関係)。 

※社外高度人材には、一定の要件を満たす外部協力者(プログラマー、エンジニア、弁護士等)が該当。  

  • スタートアップの人材獲得力向上の観点から、税制適格 SO の上限額の大幅引き上げ又は撤廃を検討すること。併せて、税制適格 SOの要件の更なる見直しを 3 含めて利便性向上を図ること。 

※税制適格 SO の使い勝手が悪いこと等を背景として、信託型 SO 等の制度面・税制面で不安定な制度の活用 が近年増加しており、税制適格 SO の利便性向上は喫緊の課題。 

  1. 種類株式に応じた未上場会社の株価算定ルール(日本版 409A)の策定  
  • 種類株式に応じたセーフハーバーとしての株価算定ルールが明示されておらず、 税制適格ストックオプション(SO)の発行や役職員等へのインセンティブ目的で の株式の付与等において不安定な税務実務となっていることから、米国 IRC409A の日本版(日本版 409A)として、ガイドラインや国税庁通達等の形で同 ルールや指針を策定すること。 

※米国では、内国歳入庁(IRS)が未上場会社の普通株式の株価算定ルールとして IRC409A を策定。日本では、 国税庁通達により非上場会社の一般的な株価算定方法が示されているものの、多くのスタートアップで導入さ れている種類株式の評価やそれらが導入されている場合の税制適格 SO の要件該当性についての予見可能 性のある算定ルールは明示されていない。 

  1. 非上場株式市場の制度見直し  プライマリー市場及びセカンダリー市場の取引活性化に向けて、日米欧等で制 度比較(投資家要件、募集・勧誘、投資上限、情報開示、事業者要件等)を行い、 必要な制度改正を行うこと。
  2. 有価証券届出書・会社登記における個人情報の取り扱いの見直し  新規公開時に提出される有価証券届出書において SO の保有者の氏名・住所 等が記載され、また会社登記の際には登記簿に代表取締役の住所が記載されて公開情報となるが、インターネットによる情報へのアクセス性の高まりを踏まえ、 これら個人情報の取扱いの在り方を見直すこと。
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