デジタル・ニッポン2023案 ~ガバメント・トランスフォーメーション基本計画~
2023年5月16日
自由民主党 政務調査会
デジタル社会推進本部
~ガバメント・トランスフォーメーション基本計画~
目次
はじめに
1.本提言
1-1.本提言の位置付け
1-2.これまでの成果とこれからの方向性
1-3.本提言の構造
2.2025年までに実現したい将来像とその先
2-1.民間企業にとっての将来像
2-1-1.圧倒的な生産性向上と新たな成長産業の創出
2-1-2.データ流通を前提とした経済活動
2-1-3.IT産業の構造転換
2-2.個人にとっての将来像
2-2-1.オンライン前提社会
2-2-2.多様なニーズに応えるプッシュ型行政サービス
2-2-3.誰一人取り残されない人に優しいデジタル社会
2-3.行政にとっての将来像
2-3-1.目指すところ
2-3-2.デジタルマーケットプレイス(DMP)[1]の活用
2-3-3.EBPM[2]の実現
2-3-.4国と地方の役割分担の再整理
2-3-5.リソースの最適化
2-4.社会環境の変革
2-4-1.少子高齢化を伴う人口減少
2-4-2.災害の頻発化・激甚化
2-4-3.ハイブリッド戦争[3]
2-4-4.テクノロジーの進展
3.構造転換
3-1.基盤の整備・アップデート
3-1-1.ビジネスチャンスの予見可能性
3-1-2.国・地方のネットワークの確立
3-1-3.ID基盤の活用
3-1-4.データ活用、デジタルアーカイブ
3-2.ガバメント・トランスフォーメーション
3-2-1.イノベーション・テクノロジーの実装を前提とした社会基盤創り
3-2-2.国と地方の役割分担の再整理
3-2-3.地方自治体業務システムの統一・標準化、ガバメントクラウド利用
3-2-4.国会運営の更なる効率化
3-3.リソースの最適化
3-3-1.政府情報システム保守運用体制・関係機関との連携強化
3-3-2.高度デジタル人材の確保
4.変革への挑戦
4-1.「防災DXの推進に関する提言」概要(防災DXプロジェクトチーム)
4-2.「AIホワイトペーパー」概要(AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム)
4-3.「web3[4]ホワイトペーパー」概要(web3プロジェクトチーム)
4-4.デジタル人材育成プロジェクトチームの提言概要(デジタル人材育成プロジェクトチーム)
4-5.「サイバーセキュリティ強化のためのデジタル政策面からの提言」概要(デジタルセキュリティに関するプロジェクトチーム)」
[1] ハイブリッド戦争:多種多様な手段を使い、政治目的を達成するために情報戦、心理戦を強く意識したサイバー攻撃や情報戦等と武力攻撃等を組み合わせた軍事戦略の手法。
[1] web3:次世代インターネットとして注目される概念、巨大なプラットフォーマーの支配を脱し、分散化されて個と個がつながった世界。
ヒアリングリスト
デジタル社会推進本部役員表
別添1.「防災DXの推進に関する提言」
別添2.「AIホワイトペーパー」
別添3.「web3ホワイトペーパー」
別添4.「デジタル人材育成の推進に関する提言」
別添5.「サイバーセキュリティ強化のためのデジタル政策面からの提言」
はじめに
自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部は、2001年(平成13年)「e-Japan重点計画特命委員会」以来20年の歴史があり、継続的にデジタル政策を提言してきた。デジタル政策提言「デジタル・ニッポン」シリーズは、2010年(平成22年)から毎年、民間から幅広く知見を集めながら、脈々と受け継ぎ、以下のように、具体的な提言としてまとめてきた。
- 2010年 新ICT[5]戦略
- 2011年 絆バージョン ~復興、そして成長へ
- 2012年 政権復帰
- 2013年 ICTで日本を取り戻す
- 2014年 2020年世界最先端国家の具体像
- 2015年 IoT[6]・マイナンバー時代のIT国家像とパブリックセーフティ
- 2016年 最新テクノロジーの社会実装による世界最先端IT国家像
- 2017年 データ立国による知識社会への革新
- 2018年 2030年の近未来政府
- 2019年 インクルーシブなデジタル社会
- 2020年 コロナ時代のデジタル田園都市国家構想
- 2021年 日本の現場力をデジタルで底上げ
- 2022年 デジタルによる新しい資本主義への挑戦
特に、2020年(令和2年)6月には、新型コロナウイルス禍(いわゆる「コロナ禍」)により大きく変わる社会に向けた新たな政策として、当本部(当時は特別委員会)から、デジタル庁創設を含む「デジタル・ニッポン2020~コロナ時代のデジタル田園都市国家構想~」を提言し、2021年(令和3年)5月のデジタル改革関連法成立、同年9月のデジタル庁創立や、デジタル田園都市国家構想の重要政策化等着実な実績を挙げてきた。
また、2021年(令和3年)6月では、同年9月のデジタル庁設立を控えて、デジタル社会の実現を国民目線から捉えた直した提言として「デジタル・ニッポン2021」をまとめた。
そして、2022年(令和4年)4月には、岸田政権が目指す「新しい資本主義」の実現に不可欠な「デジタル田園都市国家構想」、web3やNFT[7]、スタートアップ企業支援等の施策を推し進めるべく、急速に変化するデジタルの世界の足元を固める提言として、社会全体のDX、デジタル推進人材の育成、デジタル規制・構造改革、行政のDXや、司令塔としてのデジタル庁の強化策等をまとめた。
さらには、政治主導で推進すべきデジタル政策に関しては、自民党が中心的な役割を果たしている「デジタルソサイエティ推進議員連盟(超党派)」によって、
- 2014年(平成26年)サイバーセキュリティ基本法
- 2016年(平成28年)官民データ活用推進基本法
を議員立法で成立させ、その取組を加速化してきた。
なお、
- 2018年(平成30年)デジタル国家創造に向けた法律案(デジタルファースト法案)
- 2019年(令和元年)社会全体におけるデジタル化の一層の推進に関する法律案
- 2020年(令和2年)特定給付金等の迅速かつ確実な給付のための給付名簿等の作成等に関する法律案
等も立案してきたが、諸般の事情により成立には至らなかった。しかし、これらの法案の内容は、その後、政府から提出し成立した、
- 2019年(令和元年)情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律(デジタル手続法)
- 2021年(令和3年)デジタル改革関連法(公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律等)
に対しての先導的な役割を果たしてきた。
1.本提言
1-1.本提言の位置付け
現状の少子化及び経済の低成長を脱却するためには、出産や結婚、起業、設備投資等の新しい一歩を踏み出すことを躊躇させている国民の日本の将来への強い不安を払拭する必要がある。
それにはまず、人口が減少しても十分に持続性がある国家運営が可能であって、かつ、成長を続ける国であるという未来を提示することが重要である。そして、その実現のためには、徹底的にデジタル・テクノロジーを実装し、官民の生産性を高めるとともに、行政は人員と予算を割かずとも効率的に運営できる方法に変えていかなくてはならない。従来の経済・社会活動を支えてきた社会インフラである「制度」・「リソース」・「ガバナンス」の3つを、デジタルを前提にしたものに作り直すことで、ガバメント・トランスフォーメーションを実現し、新しい国の形を創っていかなくてはならない。そのために何が必要か、本提言で述べていく。
1-2.これまでの成果とこれからの方向性
これまでのデジタル・ニッポンの提言を基に立ち上がったデジタル庁は、まもなく創設2年を迎える。改めてデジタル庁の創設の意義を振り返ると、以下の観点を忘れてはならない。
・ 新型コロナウイルスへの対応において、国及び地方自治体のデジタル化の遅れや、不十分なシステム連携等による給付の遅れが生じたこと、少子高齢化等の社会構造の変化により社会の多様性が増していく中で、ICTの活用により一人一人のニーズに合ったサービスの提供が求められてきたこと。
・ これらの有事に露呈した平時の弱点を克服し、平時の便利、有事の安心を提供できるデジタル社会の実現に向けて、デジタル化の司令塔機能が必要であったこと。
これからのあるべき姿、方向性を描くに当たって、まずはデジタル庁設立後の成果と現在地を確認していく。
これまでの提言を基に、誰一人取り残されない人に優しいデジタル社会の実現に向けて、デジタル実装により、デジタルを前提とした官民のサービス等が当たり前に利用できるよう、社会全体のデジタル基盤整備を加速度的に進めてきた。
特に、最高位の本人確認機能を持つマイナンバーカードは、デジタル社会のパスポートとして、既に外国人を含む日本住民の約77%が所持することとなった(2023年(令和5年)5月7日時点の申請件数)。オンラインでの本人確認が可能という前提は、社会全体のデジタル実装を急速に推し進める。既に行政手続のオンライン申請や、金融機関の口座のオンライン開設等に加え、健康保険証としての利用も始まっている。マイナンバーカードでの本人確認を前提とした新型コロナワクチン接種証明書アプリも多くの人に利用された。また、一部の地域では、図書館カードとしての利用やタクシー運賃の補助サービスでの利用等も行われており、カードの利用が身近になってきている。
さらに、マイナンバーカードでログインする個人のページ「マイナポータル」は、利用者にとって使いやすいかという視点での刷新が行われたり、機能の充実として必要な手続を忘れないように表示するサービスや、子育ての記録(例:母子の健康診断情報や予防接種情報等)をいつでも確認できるサービスといった機能の追加も行われた。
また、緊急時等の公金の受け取り用の口座をあらかじめ登録しておくことでスムーズに給付が受けられるようになった。この公金受取口座の登録率は約60%となっている(2023年(令和5年)5月7日時点のマイナンバーカード交付枚数における登録数)。
官民のサービスに必要な自分の情報の拡充も行われており、例えば、確定申告に必要な控除証明書情報や医療費の情報がオンラインで取得でき、シームレスに申告手続ができるようになったり、薬剤情報や特定健診情報といった医療関係情報等も確認できるようになったなど、個人個人が実際の生活の中で、マイナンバーカードは便利だと感じるシーンが増えてきており、1人1人のニーズに合ったサービスの提供が行われる基盤が整ってきている。
そして、地域でのデジタル実装に向けたデジタル田園都市国家構想を実現するデータ連携基盤の整備や、国・地方のデジタルガバメントを担う政府共通のクラウドであるガバメントクラウドの導入が進んできたことも、今後のイノベーション、テクノロジー実装を容易とする、我が国のデジタル競争力を底上げする基礎となりつつあると言える。
この基礎を活かし、個人も企業もより一層自由な経済活動が可能になり、新たな成長産業が生まれる社会において、日本が抱える社会課題の解決と経済成長が拓ける未来、日本の新しい資本主義が実現されるタイミングが、今まさに来ている。
この実現に向けて、目下足元で実現してきたデジタル政策を踏まえ、大詰めとして何を実現しなくてはいけないのか、具体的な政策の方向性を示すとともに、テクノロジーを実装した将来のこの国の形を提示する。これは主に政府のデジタル化に関わることであるが、社会制度全体に影響を及ぼすため、その変化の予見性を示すことで、社会全体のデジタル化を牽引するものでもある。
民間の生産性向上は、行政が徹底的にテクノロジーを活用して、企業と個人の体験を大幅に変えることで、自身の生活や企業活動においても行政が刷新した革新的なサービスと同等以上の体験を求めるようになり、その結果として、民間におけるデジタル化、テクノロジー活用を促進していく。
1-3.本提言の構造
これまで実現してきたデジタル基盤の整備を基に、本提言は、以下の構造を取っている。
・2025年(令和7年)までに実現したい将来像(民間企業、個人、行政にとって)
・社会の変革に対応する新しいデジタル施策への挑戦
まず、デジタル政策の実現によって、企業・個人が得られる恩恵と可能性を明らかにすることで、少子高齢化・人口減少局面にある我が国であっても、経済成長が可能であり、将来に希望があることを広く共有したい。
そして、デジタル時代の社会変化は急速かつダイナミックであり、世界規模のパンデミック、災害の頻発化・激甚化、ハイブリッド戦争とも言える安全保障環境の変容、テクノロジーの進展等は、この間、待ったなしに進んできた。
本提言のとりまとめに当たっては、これらの変革をリアルタイムでキャッチアップし、先手を打っていくためのこの国のデジタル政策を提言すべく、以下の5分野のプロジェクトチームを立ち上げ、各分野における最先端の議論を行ってきた。
①防災DXプロジェクトチーム
②AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム
③web3プロジェクトチーム
④デジタル人材育成プロジェクトチーム
⑤デジタルセキュリティに関するプロジェクトチーム
デジタル社会推進本部が5分野のプロジェクトチームを立ち上げたのは、本年度が初の試みではあったが、これは、デジタル実装のフェーズである現在の我が国が、目まぐるしく変動する国際情勢における社会課題を想定し、今後の5年先を見据えた戦略を打って出る現在において議論すべきものとして必然のことであった。
各プロジェクトチームは最新の動向等を踏まえた提言をとりまとめ、政府に政策の具体化を促す役割を担うものとなる流れを醸成してきた。変化が速いこの時代において、リアルタイムなアクションを打ち出す、政府、民間企業への予見性を提供する指針としての提言である。
2.2025年までに実現したい将来像とその先
2-1.民間企業にとっての将来像
2-1-1.圧倒的な生産性向上と新たな成長産業の創出
日本社会のDX=デジタルによる変革を実現するには、古くなってしまったこの国のインフラ=制度・リソース・ガバナンスを更新する必要がある。テクノロジーが進化した今、法制度や行政組織を一気に更新するチャンスであるとして、「デジタル臨時行政調査会」(デジタル臨調)を立ち上げ、テクノロジーの実装を阻害している「目視」「対面」「常駐」等のアナログ規制の一掃に取り組んできた。2024年度(令和6年度)中には、約10,000条項のアナログ規制が撤廃される。
今後、デジタル臨調は、アナログ規制を一掃する取組を貫徹しつつ、2025年度(令和7年度)までに、デジタル完結をさらに進め、データ駆動型社会を実現するために必要な我が国のガバナンスの基本的な見直しや、ベース・レジストリ[8]制度等新たな制度整備を進めていくことが重要である。
将来にわたってデジタル技術の進展等を踏まえた規制の見直しが、自律的・継続的に行われる仕組みとなるよう、デジタル法制局機能も政府内に実装した。
これらにより、企業及び個人はテクノロジーを活用した新しいサービスや効率的な事業運営が可能となり、新たな成長産業の創出、海外展開、人手不足の解消、生産性の向上による所得の上昇が期待される。行政においても、効率的な行政運営が可能となる。
こうした規制・制度の見直しと同時に、多様な企業や個人が、必要な時に必要なデータを入手し柔軟に活用できるデータ駆動型社会確立のための環境整備が重要である。近年、インターネット世界に加え、リアル世界から得られるデータ量も急増し、高度なAIによって大量のデータを基にした予測分析やシミュレーションにより高度な自動化等が可能になっており、これらを通じて、少子高齢化、労働力問題、防災、地方の交通網維持、効果的・効率的な医療、持続可能な経済活動の実現等、様々な社会課題をデジタルの力で克服し、経済発展につなげることが可能となってきている。我が国において、これを実現するための民間企業、個人の力を最大限発揮できるよう、データの利活用と保護を両立できるデータガバナンスの仕組みを構築するとともに、多様で質の高いデータを迅速に見付けられ活用できるための分野別のデータプラットフォームの整備、分野間の連携促進等を進めることが重要である。政府も我が国最大のデータホルダーとして、経済社会の基礎データを提供することが重要である。各企業はこうした各種のデータ等を活用しつつ、自社のビジネスによって得られる独自データ等と組み合わせることで効果的なデータ活用を通じたビジネス変革や新ビジネス展開を行うことが可能になる(例:個々のユーザーへのカスタマイズサービスが容易に展開、サプライチェーンを通じたデータ流通と製販配ビジネスの一体化、AI等を通じた抜本的な効率化等)。
また、自動運転やドローン物流等のデジタル技術を活用したサービスについて、実証段階から実装への移行を加速化し、全国に行き渡らせるため、長期的かつ大規模な投資を伴う「デジタルライフライン全国総合整備計画」の策定及び実行を進めることが重要である。
2-1-2.データ流通を前提とした経済活動
データ量の増大、AI活用の飛躍的な進化を背景に、データの活用が、我が国の発展の基盤となることは疑いがない。我が国においても、デジタル庁、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)、各府省庁の協力により、健康・医療、教育、防災、モビリティ、都市・建築物等の整備管理等の分野において、分野別データ連携基盤の構築、各種ルールの検討等が開始されている。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)において分野別に情報処理システムが繋がる仕組みとしてのアーキテクチャ整備や、データ項目、API[9]等の技術仕様をガイドラインとして整理・公表するなどにより、企業や業界、国境を越えてデータを共有する動き(「Ouranos Ecosystem(ウラノス エコシステム)」)も開始されている。
我が国として、念頭におくべき最重要な政策課題の一つは、国内イシューの観点からは、2050年前に1億人を切り、2060年には8,000万人台になるとされている人口減少の下でも、医療・介護、教育、防災、モビリティ、インフラ管理等の地域の生活に不可欠なサービスについて圧倒的な生産性向上を実現し、サービスの維持や構造的賃上げができる環境を作ることである。同時に、グローバルイシューの観点からは、地球環境問題に対応した持続可能な経済社会の構築や、経済安全保障への対応について、強みを発揮できる分野を主導するとともに、欧米に加えインド・太平洋地域を含めた有志国と戦略的に連携し、我が国の経済社会の活力につなげていくことが重要である。
あらゆるデータを分野や組織・機関を越えて活用することで、デジタル産業基盤の強化が図られ、データ駆動型の社会における新産業の創出や世界の需要の取り込みといった新たな付加価値を生み出していき、我が国が世界をリードしていく。
また、DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)は、2019年のダボス会議(World Economic Forum Annual Meeting)で故安倍元内閣総理大臣が提唱し、2019 年(令和元年)のG20大阪サミットで各国首脳から支持を得、2021年(令和3年)G7英国デジタル・技術大臣会合にてロードマップが、2022年(令和4年)G7ドイツデジタル大臣会合で アクションプランが採択された。
本年(令和5年)4月に開催されたG7デジタル・技術大臣会合では、我が国が議長国として、G7で団結し、DFFTを具体化する取組を実行に移すとし、特に、データ流通のために必要な「トラスト」である、プライバシー、セキュリティ、知財保護の確保に力点を置いた議論が行われ、DFFT推進のための国際的な枠組み(Institutional Arrangement for Partnership:IAP)の創設が確認された。
今後は、IAPを軸に、DFFTを実効性あるものとするよう、トラスト確保のための規制の透明性や相互運用性の確立、フェイクニュース対策等や、トラストを確保したデータの越境移転を可能とする具体的な仕組みの確立を行わなければならない。
こうしたDFFTを通じた国際連携と国内のデジタル政策を連動させることで、国内外一体の政策推進を行うことが可能となる。
2-1-3.IT産業の構造転換
政府が目標とする2025年(令和7年)までの地方自治体システム統一・標準化に向けて、政府共通クラウドであるガバメントクラウドへの移行が進むと、行政システムの調達はガバメントクラウド上で構築するアプリケーション若しくは一般に提供されているSaaS[10]又はPaaS[11]が大半になる。そのため、これまで国・地方自治体へシステムを提供してきた事業者はアプリケーション領域の開発に集中することができ、かつ、自治体ごとのカスタマイズも不要となることから、スタートアップや小規模企業も容易に参入し、全国でサービスを展開することが可能となる。
残念ながらIaaS[12]領域においては現状、海外のビッグテックに後塵を拝してしまったが、暗号鍵管理等セキュリティ基盤等については自律性の確保に官民で取り組みつつ、日本の多様な事業者がSaaS領域において開発力を高め、ノウハウを蓄積することで、次の競争に向かっていきたい。
一方、クラウドサービスを支えるネットワーク領域においては、日本企業の競争力は依然高く、今後、激化する競争に勝ち抜けるよう、官民で戦略を共有し、取り組んでいく必要がある。
また、我が国では、少子高齢化、防災、サービス業含めた生産性向上、地球温暖化に対応した持続可能な社会の構築、経済安全保障への対応等の社会課題をAI・データの力を最大限活用して克服し、経済成長につなげるためには、新たなビジネスを創造・展開するベンチャー等の企業群や、それらに高度デジタル基盤を提供する企業の成長が強く期待される。
昨今、我が国においても、例えば、未踏事業の出身者の相当数がベンチャーの担い手になり、AI関係のベンチャーではインド・アジア・東欧等の多様な高度人材も活躍するなどの動きも進んでいる。
自動翻訳といったデジタルツールは、言語の壁を取り払い、多様な人材が暮らしやすい社会を実現することで、世界から優秀な人材を獲得することが可能になるとともに、インバウンドの推進を促す。
さらに、防災分野では、デジタル3原則に基づく防災アーキテクチャの設計やデータ連携基盤の構築、防災アプリ開発・活用等は、我が国が率先して実装していくことで国民の命を守るとともに、他国に展開可能な成長分野の1つにもなる。
2-2.個人にとっての将来像
2-2-1.オンライン前提社会
ほぼ全ての国民が、最高位の本人確認機能を有するマイナンバーカード「デジタル社会のパスポート」を持つことが見えてきた。マイナンバーカードがデジタル社会のIDインフラとなった今、次のフェーズは、個人がユーザーとして、多様なオンラインサービスから自分に合ったものを享受できるようになることである。
目指す姿は、
・ 国が提供する新たなスマートフォンアプリをダウンロードすると、国や地方自 治体からの給付金や今後必要となる行政手続に関するお知らせが届く。利用者はアプリを開きログインするだけで自分の口座に給付金が振り込まれたことを確認できる。
・ 出産や子育てを行う方には、国や地方自治体から必要な情報や手続のお知らせが届く。出生手続、新生児のマイナンバーカード申請、育児手当の給付は簡単な確認のみで自動で完了し、幼児のワクチン接種の予約や近所の保育園の手続がアプリ内で完結する。
・ 病院では、このアプリが診察券の代わりとしても利用でき、病院での診察や処方された薬の履歴もすぐに確認できる。引っ越しをした際には、アプリを使えば引っ越し元の自治体の窓口に行く必要もなくなり、アプリ内で、銀行、証券、電気、ガス、水道等の面倒な住所変更も一括で更新できる。納税の手続や年金の確認も、このアプリ1つで全てオンラインで完了する。
・ 災害時には、本人に関する正確な情報を本人の希望に応じ共有できるマイナンバーカード及びマイナンバーの活用により、被災者⼀人ひとりの状況に応じた⽀援を行うことができる。
また、これらのサービスは、国が提供するアプリからだけでなく、自分の使い慣れたアプリ等からもアクセスできるようになる。こういった、誰もが安心して便利に使えると身近に実感できる社会が目指すところである。この実現に当たっては、マイナンバーカードを前提とした官民のサービスが広く展開されることが求められる。その点、スマートフォンへの本人確認機能の実装は、本年5月11日にまずはアンドロイド端末より開始されたが、日本の多くのユーザーが利用するiOS端末での実装が急がれ、その実現により、個人は、スマートフォン1つで、オンラインショッピングをする感覚と同様に、自分に必要なサービスをどこからでも享受できるようになる。
2-2-2.多様なニーズに応えるプッシュ型行政サービス
新型コロナウイルスへの対応の一環として行われた特別定額給付金をきっかけに明らかになった、給付事務手続等の煩雑を解消し、即時に支援を届けることを目的として公金受取口座登録法[13]が成立した。緊急時等の給付を受け取ることができる口座を、あらかじめ登録することができるようになった。この仕組みを活用することで、スムーズにプッシュ型で様々な給付サービスが受けられるようになる
また、二拠点生活、リモートワークの急増といった社会実態に合わせ、行政からのお知らせもオンラインのマイナポータルによって受け取れるようになることで、忘れがちの手続や健診情報等を、普段使っているスマートフォン等の端末で確認することができるようになる。
さらには、官民がデータに基づくサービスを増やしていくことで、個人は一層オンデマンドのサービスを享受することができるようになる。
2-2-3.誰一人取り残されない人に優しいデジタル社会
デジタルツールを使わない人も、デジタルによって効率化されることによって、デジタルを意識しなくてもサービスを便利に利用できたり、アナログでも丁寧な対応を受けられたりすることができる社会、「誰一人取り残されない人に優しいデジタル社会」を実現していかなければならない。
スマートフォンを使わない方や苦手とする方にとって便利なサービスの1つとして、「書かないワンストップ窓口」が地方自治体で広がっている。住民が行政窓口を何カ所も回らず、何度も同じことを書かずに手続を簡単に済ませられるという取組であり、また、自治体の職員にとっても、庁内の情報活用による入力作業の削減等、業務の効率化にもつながっている。デジタルツールを使う人にとっては、さらに「行かない行政」を目指す。
デジタル田園都市国家構想交付金は、2022年度(令和4年度)分からマイナンバーカードの普及率が高い団体がその利点を活かしてマイナンバーカード利用の先行事例を実施し、全国への横展開のモデルとなることを後押しする仕組みが導入された。こういった全国のあらゆる地域でのデジタル化の推進を後押しする交付金の活用が重要であり、これにより、全国の市区町村の窓口だけでなく、公民館や郵便局等にも環境を整えることで、信頼できる人のサポートの下、各種行政手続やオンライン診療等も可能になる。
デジタル社会を支える重要な存在である「デジタル推進委員」は、2022年(令和4年)5月の開始から約2万5千人(2023年(令和5年)5月現在)が担い手となり、スマートフォンの基本的な操作方法を教えたり、地域で実装されるデジタルサービスの使い方をサポートするといった活動を展開しているところであるが、自治体・経済団体・企業・地域ボランティア団体との連携をさらに進めるとともに、教える内容についても、デジタルの基本的な使い方に加え、マイナンバーカードや地域で実装されているサービスの利用方法等を対象とすることで、地域の実情に沿ったデジタル実装が進展する中、高齢者や障害者等のデジタル機器やサービスに不慣れな方の不安を解消し、誰一人取り残されないための取組を推進することが可能となる。
2-3.行政にとっての将来像
2-3-1.目指すところ
品質・コスト・スピードを兼ね備えた行政サービスに向けて、アーキテクチャ設計の在り方を根本から見直すとして、「スマートフォンで 60 秒で手続が完結」、「7日間で行政サービスを立ち上げられる」、「民間サービス並みのコスト」の実現が急がれる。
デジタル社会の遅れを取り戻すとしてデジタル庁を創設し、その直近のターゲットとした2025年(令和7年)がまもなく訪れようとしているところ、あるべき姿として描いたデジタル社会の実現は、近い未来として見えてきており、そこに向けて官民で着実に実装を進めていく。
2-3-2.デジタルマーケットプレイス(DMP)の活用
個人がスマートフォンで使いたいアプリをダウンロードするように、行政機関がカタログサイト上に登録されたサービス(例:業務効率化ツール、サービス開発ツール等のクラウドサービスを想定)の中から調達仕様に対して最も適切なものを選択し、契約することができる、日本版「デジタルマーケットプレイス」(DMP)が導入されると、行政機関は調達期間を短縮でき、行政サービスの立ち上げや行政事務の効率化を迅速に行うことができるようになり、有事にも柔軟にシステム整備等の対応が可能となる。
様々なクラウドソフトウェアがDMP上で見える化されることで市場の可視化につながり、比較を通じて行政機関による迅速・公平な調達が促されるとともに、調達手続の簡素化により、多様な事業者の参入が促進され、公共調達を通じた中小・スタートアップ企業も含めたソフトウェア産業振興につながることが想定される。
2-3-3.EBPMの実現
ベース・レジストリ、データ活用等により、データを基に政策の意思決定が行われるようになり、環境の変化が早く、社会課題が複雑化・困難化して先を見通しにくい状況下で、社会課題に適時的確に対応し、より機動的かつ効果的な行政サービスの提供が可能となる。また、政策を実現するために必要なリソースの配分の分析も、データに基づいて実施することが可能となる。
さらに、EBPMのエビデンスに基づいた政策判断に留まらず、関連する現場の声や関係者の状況等も併せてリアルタイムで政策を柔軟にブラッシュアップしていく、アジャイル[14]型政策形成・評価も、EBPMと併せて実現していくことで、実情に適した効果的な政策実施が可能となる。
2-3-4.国と地方の役割分担の再整理
これまで日本は住民に近い行政機関がそれぞれにきめ細やかな行政サービスをする方が望ましいという考えの下、地方分権を進めてきた。しかし、その結果、保育所や介護事業所が行政に提出する書類が地方自治体ごとにフォーマットが異なったり、行政システムがバラバラなため現金給付に時間がかかったりと、不便なことが多く起こった。コロナ禍でのワクチン接種記録・システム管理等や、ガバメントクラウドの整備、地方自治体システムの標準化への対応といった、デジタル化への対応の中での国と地方のサービス提供の在り方やシステムの持ち方等は変容しないといけないということが明らかになった。
テクノロジーが進展したことにより、例えば緊急時の給付について、給付の対象者や期限等といった制度内容やそれに対する問い合わせ対応、オンライン申請・口座振込等の機能は、全国どの地方自治体にも共通するものであり、国が共通機能を提供して迅速なサービスを提供するなど、柔軟な行政運営を国・地方が一体となって変化に強い関係性を構築していくことで、行政にとっては業務が効率化され、住民にとってはサービスが分かりやすくなる。
2-3-5.リソースの最適化
デジタル庁は、約1,100を超える政府情報システムの統括監理を行い、かつ、40を超えるシステムについては、デジタル庁自らが整備・運用を行っているが、そのうち安定的な運用フェーズに入った政府システムの保守運用はもとより、ベース・レジストリやデータ戦略等の構築・アップデート等を、デジタル庁職員のみで担い続けていくことは非効率である。
今後は、関係機関との連携を含めた新たな体制で行うことにより、政府職員の政策資源を他の企画立案に向けることができるとともに、デジタル庁と関係機関との新たな連携による柔軟なサービス提供も可能となる。
2-4.社会環境の変革
2-4-1.少子高齢化を伴う人口減少
我が国において、少子高齢化を伴う人口減少が深刻化しているこの局面においても、行政サービスの質の向上と効率的な提供が求められ、また、生産性を向上させ、経済成長を図るには、デジタルを最大限に活用することが必要不可欠である。単にデジタルに置き換えるのではなく、デジタルの良さを活かす考え方で今までのやり方を見直し、デジタルを前提とした次の時代のための新たな社会基盤を構築するというチャレンジが、世界で高齢化の先頭にいる我が国が世界から注目される先行事例として、歴史的にも大きな意義があると考える。
2-4-2.災害の頻発化・激甚化
昨今の災害は発災の頻度が上がっているとともに、激甚化も同時に起こっている。さらに、高齢化や多言語化によりきめ細やかな対応が求められるようになっている。対応する人手の不足も課題であるが、防災は人命がかかっているのであって、デジタルツールの利用や情報連携の迅速性が非常に重要であり、国や地方自治体の機関ごとの取組に差異が出てはならない。
2-4-3.ハイブリッド戦争
ウクライナ情勢を見ても明らかなように、現代のハイブリッド戦争では、物理的な戦闘に入る前にシステムやインフラを無力化ないし弱体化させる目的で、サイバー空間での攻撃が先行する傾向が強まっている。サイバー空間での攻撃には、国境の壁だけでなく、公的・民間の境界もほとんど意味を持たない。有事のサイバー攻撃と平時のサイバー犯罪の線引きは難しく、ディスインフォメーションやフェイクニュースも加速度的に高度化する中で、安全保障とデジタル政策との連携は益々重要になっている。
2-4-4.テクノロジーの進展
生成型AIの登場により、社会構造は大きく変革しようとしている。それは更に加速度的に進んでいくが、そのメリットや影響、想定されるリスク等を正確に捉え、AIやweb3等のテクノロジーの進展の流れに沿った政策を打っていかなくてはいけない。
政府は、新しいテクノロジーに対して一律に規制するのではなく、アジャイルに賢い使い方を模索し、主体的に上手く使いこなしていくことで、「AI新時代」とも呼ぶべき想定外の時代の到来に向き合い、新たな経済成長の起爆剤としていかなくてはいけない。
一方で、テクノロジーの進展も持続可能でなければならない。目下はAIの利用等に必要となる電力等のエネルギーの消費には留意が必要である。長期的な電力源の確保はもとより省エネルギー化、効率化も念頭に置いておかなければならない。
3.構造転換
目下のターゲットとしている2025年(令和7年)からバックキャストを行い、その中で実施すべき産業構造の転換策、国・地方のガバナンスの在り方は何か。これらを明らかにすることで、社会全体で予見性を持ってDXを進めていくことができる。
3-1.基盤の整備・アップデート
3-1-1.ビジネスチャンスの予見可能性
IT産業構造の転換の起点として、行政向けシステムを構築しているIT事業者が、ガバメントクラウド上のSaaSを提供する事業へとビジネスモデルを転換し得るよう、その障壁は何あるのか、洗い出す必要がある。
また、デジタルマーケットプレイス(DMP)に実現に当たっては、参入時のルールや参入によるメリット等を明らかにし、民間企業が予見可能性を持って広く参入できるようにする必要がある。加えて、新たな仕組みやサービスがDMPのカタログサイトに採用され、全国で横展開されるなど、社会全体のデジタル化に寄与する仕組みやサービスを先駆的にリスクを取って構築・実装した企業や地方自治体には、費用面での優遇等のインセンティブが働く仕掛けを検討すべきである。
これらの多様な主体がSaaS領域・DMPに参入・利用する際の制度的な課題の解消を行い、人材育成・促進策を、産業政策として用意すべきである。
3-1-2.国・地方のネットワークの確立
国と地方のデジタル基盤であるネットワーク及びセキュリティ対策は、デジタル社会では不可欠なものであり、その継続性・持続性が益々重要となっている。全体最適の観点からデザインする必要があることから、デジタル庁が中心となって総務省と共に望ましい将来像及びその実現シナリオを検討、提示すべきである。
その際、日本全体としてトータルでどのようなネットワーク構成が効率的で望ましいかといった点に加えて、強固なセキュリティ環境の具備、使い勝手の向上、様々な事態も考慮した安定的な運用・強靭性の確保といった点を満たしたものとすることが求められる。
また、特に、地方のネットワークについては、現行のいわゆる「三層分離」[15]を前提とする考え方について、その廃止も視野に入れた抜本的な見直しを早急に検討し結論を得ると共に、将来的には、デジタル庁が中心となって検討をした望ましいネットワーク構成の下で、国と同様に、ゼロトラスト[16]アーキテクチャ環境下でのシンプルなネットワーク構成を目指すべきである。
その他、中長期的には、我が国のIT産業の振興や国際競争力の強化につながるサービスや技術の採用についても、積極的に検討すべきである。
3-1-3.ID基盤の活用
マイナンバーカードがデジタル社会の本人確認基盤であるということを前提とした、社会全体でのオンラインサービスの充実等による利便性・効率性・正確性の向上が急務であり、デジタル庁だけではなく、政府全体、そして官民でその利活用策を進めていかなくてはいけない。
例えば、これまで紙媒体を前提に運用されてきた国家資格関係の事務は、マイナンバー制度を基盤として、資格情報を管理機関同士等で連携したり、資格申請者が申請手続をオンラインで行うことができるようになった。今般のマイナンバー制度関係の法改正においては、約50の国家資格等が追加となったが、今後も更なる利活用が求められる。
なお、確実な情報保全を含め信頼性が高く責任ある行政を行うと共に、官民のリボルビングドア等も含めた様々な働き方がある状況において、公務関連業務に従事する者のIDを付与する際に本人の一意性を確保するためにマイナンバーカードを活用することについても検討することが必要である。
また、利用できるオンラインサービスの多様化として、マイナポータルのUI[17]/UX[18]を含めた利便性の向上は不断のアップデートが求められ、その際、他の利便性の高い民間アプリ等と容易に連携できることが必要である。
3-1-4.データ活用、標準戦略、デジタルアーカイブ
政府のデータ活用に関する取組は、我が国の経済・社会の構造変革をもたらすよう十分かつ本格的なものとなっているとは言い難い。また、我が国の産業界においても、一部の先進的企業では取組が進んでいるが、サプライチェーンレベルや異業種連携ではデータ活用に向けた取組のレベルは極めて低水準に止まっている。
他方、米国、欧州の取組は国際的な強い影響力を持ちながら急速に進展している。米国においては、安全保障、サイバーセキュリティの観点で、米国国立標準技術研究所(NIST)[19]の基準が米国内の政府調達での活用から開始され、今では官民問わず国内外に広く使われるようになっている。特に、製品やソフトウェアのサプライチェーンも含めて信頼できる主体が関与していることを確認する動きが加速しており、日本企業もこれに対応する必要がでてきている。また、欧州では、地球環境問題への対応を軸に、GAIA-X[20]/Catena-X[21]といった動きが本格化している。カーボンフットプリント制度[22]、サーキュラーエコノミー[23]確立の観点からのデジタル製品パスポート[24]の動きが加速化している。
こうした状況を踏まえ、改めて、我が国におけるデータ活用を通じた生産性向上の戦略と実行を再加速する必要がある。
こうしたデータ活用戦略、さらにはAI・データ活用のための戦略を進めるためには、総理のリーダーシップの下で、デジタル庁を司令塔に省庁横断の推進体制を作り、同時に、産官学の緊密な連携の下で、政策目標、実現時期を決めて、具体的な政策対応をしていくべきである。
また、データ活用を進める上では、データ駆動型の産業や社会の設計図に基づいて、省庁の既存の縦割 りを排した制度構築や支援を通じて、官・民・産・学等の様々な主体が予見可能性をもって活用ができ、様々な分野・地域で展開・利用される安全安心でかつ相互接続性を確保できる形でのデータ連携の基盤を構築していくことが必要である。
この実行には技術面・人材面で強力な体制が必要であり、デジタル庁の司令塔機能を最大限発揮し政策を実行に移す体制が不可欠である。そうした観点から、IPAを、米国のNISTも参考に、デジタル分野における基準・標準機関として位置付け、経済産業分野で培ってきた実績を活かしつつ、国全体のデジタル社会形成の司令塔であるデジタル庁の下で、データ戦略、公共・準公共分野のDXやデジタル規制改革、データ駆動型の新産業創出やデジタル産業基盤の強化に必要となるデータ・システムに係る基準・標準の整備を推進することとする。デジタル庁は、各府省庁に対する総合調整権限の下、システム調達や各府省の所管する規制・制度への基準・標準の実装を進めることにより相互運用性・安全性等が確保された形での官民の投資を促し、デジタル社会の形成を加速する。経済産業省は、こうした取組と緊密に連携し、デジタルアーキテクチャーの取組を加速するとともに、経済安全保障や産業競争力の観点を踏まえ、デジタル産業基盤の強化をリードする。
AI・データ活用のための政策推進においては、例えば、AI・データ活用のためのベンチャー向けハブの構築や、公的サービス分野での各種ハッカソンの開催、技術力を評価した政府調達の推進、一度評価されたSaaSが全国で横展開できるデジタルマーケットプレイス(DMP)の整備等を進め、常に、産業としての担い手を育成する観点を持って推進していかなければならない。
テクノロジーの急速な発展に伴い、国際的な技術標準をめぐる主導権争いが激化している。国際標準化戦略は、その国の経済成長や経済安全保障に関わる重要事項であり、米欧では、各々国や地域を代表して国際標準化戦略に取り組む機関が活発に活動している。また、中国では、「シャドーコミッティ」として国策で体制を整えている。
我が国でも各府省庁が国際標準化に取り組んでいるものの、今後、これらを整理して本格的な国際標準化戦略に取り組む体制を整えるべきである。
そのため、知的財産戦略本部を中心に、デジタル庁、総務省、経済産業省等の関連部署が連携し、司令塔としてのCSO(Chief Standardization Officer、国際標準化責任者)機能を整備し、併せて、国際標準化団体において、主導的役割を担いうる人材の育成を行うべきである。
デジタルアーカイブ[25]を推進するとともに、AIと知的財産を巡る知的財産基本法上の課題について内閣府知財事務局を全体の司令塔としつつ、文化庁における著作権制度上の課題の整理や権利調整を踏まえ、政府として課題への対応を行うべきである。また、AIに係るリスクの懸念に適切に対応しつつ、AI利活用による生産性の向上や競争力強化という可能性を踏まえた取組を検討する観点から、デジタル庁において、アーカイブを含む行政機関が保有するデータについて、AI利活用のための技術検証を行い、整備すべきデータの範囲を検討すべき。
3-2.ガバメント・トランスフォーメーション
我々は、国民にとってのデジタルガバメントはひとつであることを意識しなくてはならない。国と地方のそれぞれではなく、デジタルでシームレスにつながる社会だからこその強みを活かすデジタルガバメントであるべきである。
国が強いリーダーシップを発揮し、有事を想定して平時から、デジタルを前提とした効果的なサービス提供を行っていくべきである。
3-2-1.イノベーション・テクノロジーの実装を前提とした社会基盤創り
緊急時でも通常業務でも利用できる給付機能(SaaS)や、政府への納付時に利用できるキャッシュレス機能(政府共通決済SaaS)等の共通的に利用できる機能を、政府の共通クラウドであるガバメントクラウド上に構築し、それを用いた迅速な行政サービスの提供を、国が自ら行うことを可能とすべきである。
また、ガバメントクラウドについては、現在は必要な要件を満たす海外企業4社による提供となっているが、最先端の技術動向を踏まえた要件の改善を行うとともに、経済安全保障・国内産業育成等の観点からの提供の在り方等も検討を行う必要がある。
なお、クラウド技術の利点を最大限活かし、かつ、ベンダロックインを回避するよう、マルチクラウド環境・データポータビリティ[26]の維持、充実に力を入れなくてはならない。
3-2-2.国と地方の役割分担の再整理
国民から見た時にデジタルガバメントはひとつであるべきである。これまで1,741市区町村の窓口業務及び行政手続のデジタル化を進めてきたが、ガバメントクラウドのように国と地方が共通して利用可能なデジタル基盤が整いつつあることから、政府全体の行政サービスのあり方を再構築すべきである。例えば、同一制度を基にした行政サービスは、国が共通機能(コールセンターやオンライン窓口)を提供し、AI等を活用して迅速に対処した上で、個別対応が必要なもののみ、地方自治体が対応するという形を基本形とするなど、国と自治体における最適な情報共有の手法、国が一律に規定する範囲と現場判断で柔軟に対応可能な範囲、ひいては有事におけるデータの共有ルール等について、最適な役割分担の検討を行う必要がある。
これらは、分野を越えて横断的に課題を洗い出し、必要に応じて制度改正・規制改革を行う必要があることから、デジタル臨時行政調査会でその検討を担い、その実現に必要な法的整備の検討を行うべきである。
3-2-3.地方自治体業務システムの統一・標準化、ガバメントクラウド利用
地方自治体の業務システムの統一・標準化は、2025年度(令和7年度)までの完成を目指して政府を挙げて取り組んでいるところではあるが、対象20業務の標準化・ガバメントクラウドへの移行は、これまでのシステム提供の在り方を刷新する大胆な取組である。期限までに着実に進めることは重要であるが、一方で、自治体の規模等により、期限までに間に合わない自治体がある場合には、その対応をデジタル庁及び総務省において考える必要がある。
そして、地方自治体におけるクラウドサービスの利用は、ワンストップ型行政の促進を通じた住民サービスの向上、システム運営の効率化によるコスト削減、データ連携を基礎とする新たなサービス開発等を進める上での礎となるものであり、国と地方自治体の緊密な連携の下、積極的に推進することが必要である。それに当たっては、地方自治体業務の性質に応じたクラウドの多様性や、地方自治体が安心して利用できるセキュリティの確保等がなされるべきである。
そこで、既にクラウド化に取り組んでいる地方自治体から意見聴取を行い、自治体が抱えている課題等を把握し、クラウドサービス事業者等の意見も聴取の上、今後の利用推進に向けた所要の方策について検討を行うこと。
その上で、自治体業務の統一・標準化による業務効率化、そして住民サービスの利便性向上は、現在の標準化対象20業務に留まることなく、デジタル庁は20業務以外にも対象業務を拡大することの検討を開始すべきである。これらの20業務以外を標準化し、ガバメントクラウドに移行していくことで、あらゆる業務・サービスがガバメントクラウド上で連携して迅速かつ効率的に提供できるようになる。
3-2-4.国会運営の更なる効率化
行政のデジタル化と並走して、国会運営のデジタル化が進められてきており、デジタル手続法[27]案の審議以降、委員会質疑でもタブレットを用いた質疑応答が行われてきている。今後はネットワークに接続されたデバイスの利用を可能とし、更なる効率的な国会運営の実現が望まれる。また、衆議院・参議院における政府が整備しているガバメントソリューションサービス(GSS)[28]の利用を進めるべきである。
3-3.リソースの最適化
3-3-1.政府情報システム保守運用体制・関係機関との連携強化
社会全体のデジタル化を一層進めていくためには、その主導役たるデジタル庁が新規施策や新しいシステム開発を拡充していく必要があるが、各システムには運用・保守が伴うことを忘れてはならない。人員が不足するからといって、安易に外部に委託すればコストだけでなく、運用のノウハウ蓄積機会が失われ、利便性向上に向けた更新も疎かになる可能性がある。また、行政、準公共、民間分野を通じて官民でのデータ活用等を加速するためにはデジタル庁の政策方針に沿ってデジタル分野の基準・標準を策定・普及し、継続的に保守管理していくことも重要になる。
そこで、これまでデジタル業務で実績のある関係機関とデジタル庁が一体となって、各種施策の運用等について行うことができるよう必要な体制整備を求める。
・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
IPAを、米国国立標準技術研究所(NIST)も参考に、デジタル分野における基準・標準機関として位置付け、これまでの情報処理推進に加え、国全体のデジタル社会形成の観点から、データ戦略、公共・準公共分野のDXやデジタル規制改革、データ駆動型の新産業創出に必要となるデータ・システムに係る基準・標準の整備を推進するとともに、経済安全保障の観点も踏まえたデジタル産業基盤の強化をリードする組織としていく。
そのため、IPAの当該業務については、デジタル社会形成の司令塔であるデジタル庁が共管する、又は法的な委任関係を明確化すること等により、情報処理政策やIPA全体の業務運営を所管する経済産業省とともに、中期目標・計画の策定及び業務の評価に関与し、交付金等の必要な措置を行うこととする。また、IPAに当該業務に係る高度人材の確保・集約を可能とするグローバル水準での処遇を実現するとともにデジタル庁等と緊密に連携するための拠点について見直しを行うこことが必要である。これらに必要な制度措置として、2024年(令和6年)の通常国会において必要な法案の提出を検討する。
・独立行政法人国立印刷局
国立印刷局について、官民で広く活用されるデジタル共通基盤となるサービスの実施・運用機関として位置付け、これまで官民多様な主体から提供された法令、会社広告等の情報について正確かつ確実にデータクレンジングを行い、BCP[29]対応を構築した上で、安定的に事業を実施してきたノウハウと実績を活かし、国全体のデジタル社会形成の観点から、デジタル庁が企画立案するベース・レジストリの整備・運用を行う組織とすることが必要である。加えて、デジタルアーカイブ等その他の分野についても、国立印刷局の持つノウハウの活用を引き続き検討する。
その際、国立印刷局の当該業務については、デジタル庁と財務省の共管とし、年度目標・計画の策定及び業務の評価等により、デジタル庁が適切に関与することとする。
また、これらに必要な制度措置として、2024年(令和6年)の通常国会において必要な法案の提出を検討する。
・地方公共団体情報システム機構(J-LIS)
J-LISは法律に基づき住基ネット全国センター、マイナンバーカードの発行管理システムや公的個人認証システム[30]、地方自治体のネットワーク(LGWAN)[31]網、証明書等のコンビニ交付システム関する業務等を行っているが、デジタル化の加速に伴う業務量の増大や地方自治体のニーズに対応していくことが課題となっており、これらの業務に国・地方のネットワークを抜本的に見直し、公共サービスメッシュ[32]と合わせてその担い手となることが求められる。
このため、人員の確保・育成等組織の増強が急務となっており、リソース拡充を行うべく、国・地方のデジタル基盤(ネットワーク等)の統一的運用を見据えた体制、行政情報システム研究所のJ-LISへの統合、高度デジタル人材を確保するための環境整備の検討を行う。必要に応じ、法的整備を行う。
・一般社団法人行政情報システム研究所(AIS)
これまで政府のシステムの安定的な運用や国内はもとより諸外国におけるデジタル化の状況等を幅広く調査・研究してきた実績を踏まえ、デジタル庁が整備するシステムの運用やデジタル庁において必要な調査研究分野において貢献する。必要に応じて、J-LISへの統合を含め制度面等の検討を行う。
・国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
行政機関等で活用が進んでいる多言語翻訳AIやセキュリティ技術・訓練等、その研究開発成果の活用促進(ガバメントクラウド上の全省庁共通サービスとして多言語翻訳機能を開発・導入する等)に向けデジタル庁と協力する。必要となる高度デジタル人材を確保するための環境整備をすすめる。必要に応じ、法的整備を行う。
3-3-2.高度デジタル人材の確保
AIをはじめとするテクノロジーやデータを軸として、従来の産業構造が大きく変革されていく状況下において、我が国での競争力を高めていくためには、AI共存社会を前提とした「デジタル人材の育成・確保」がすべてのデジタル施策の基盤となる。特に、技術的な革新が最も早いデジタル分野においては、求められる人材像は刻一刻と変革することとなり、ITパスポートの取得等による国民全体のリテラシー向上はもとより、トップ人材発掘・育成の取組が必須である。
そして、行政機関においても、デジタル庁のみならず各府省庁におけるデジタル人材の不足が、社会全体のデジタル化を推進する障害とならないよう、デジタル庁の体制強化及び各府省庁におけるデジタル人材の登用・活用をさらに進める必要があり、デジタル人材定員枠を設けるなど大胆な予算・定員の措置をすべき。
また、社会全体のデジタル化の底上げとして、リテラシーの強化が言われて来ているが、データをあらゆる場面で活用できるいわゆるデータリテラシ―の習得も求められる。
4.変革への挑戦
4-1.「防災DXの推進に関する提言」『命をつなぐデジタル-防災新時代-』概要
(防災DXプロジェクトチーム)
災害時には人命ファースト、発災後72 時間に救える命の最大化を目指す観点から、災害対応機関において被害状況を迅速に把握し、的確に意思決定を下し、行動するためには「情報」が不可欠である。そこで、災害対応機関が、災害情報をデジタル技術の活用によって共有することにより、状況認識を統⼀することが、全体最適な災害対応を実行するための鍵となる。よって、以下の点を提言する。
1.災害対応機関における災害情報の共有体制の構築
- 災害対応機関が共有すべき重要な災害情報の項目等(EEI:Essential Elements of Information、災害対応基本共有情報)やデータ共有ルール等を策定すべきである。
- 次期総合防災情報システムの着実な整備を図り、人的リソースの最適な活用のために、各省庁システムとの自動連携を実現すべきである。
- 地方自治体や指定公共機関との連携を充実すべきである。
- 「防災IoT」(ドローン、センサー等)インターフェースの実装、ISUT(災害時情報集約支援チーム)の充実強化等を図るべきである。
- 国内ローミングの推進等の通信ネットワークの強靱化、電力復旧見通し等を共有するためのシステム開発等の停電対策を推進すべきである。
- 個人情報の取り扱いに関する指針等の周知・研修を行うべきである。
2.住民支援のためのアプリ開発・利活用の促進等
- 防災DX官民共創協議会を活用し、国や民間等の災害対応機関間のデータ連携基盤や防災アーキテクチャを構築し、避難ルート案内等の防災アプリ等の開発を促進すべきである。
- 防災分野でのマイナンバーカード等の活用を促進すべきである。
3.未来に向けた構想の推進
- 「PLATEAU」を活用したベストプラクティスの開発や3D都市モデルの社会実装の推進、AI、IoT等の先端デジタル技術を駆使した研究開発を行うべきである。
政府には、本提言の内容を予算要求にしっかり反映するとともに、関係省庁連絡会議を活用し、政府一体となった取組を計画的に推進することを求める。
4-2.「AIホワイトペーパー」AI新時代を前提とした新たなAI国家戦略の策定の必要性についての提言概要
(AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム)
当PTでは、以下の点を提言する。
昨年11月に米国のOpenAI社が提供開始した対話型AIのChatGPTは、人工知能の社会実装を加速させた。これら生成系AIは経済成長の起爆剤となりうる一方、様々な社会的リスクも考慮するべきである。そこで以下の方針に従い、AI新時代に即した新たなAI国家戦略を策定する必要がある。新たな国家戦略の策定に当たっては、諸外国に比して国際的な競争優位を図る内容と規模での取組が必要である。
1.国内におけるAI開発基盤の育成・強化
- 海外プラットフォームの積極的な利活用を通じて、国内の知見を蓄積し、応用研究・開発を加速させるとともに、国内における基盤モデル等の基礎的な技術開発能力の構築・強化に向け投資と支援を継続するべきである。
- 公共データのデジタルアーカイブ化を進め、国内外の基盤モデルの日本に関連する学習データの比率を高めていくべきである。
- 基盤モデル[33]AIの構築・利活用に要する膨大な計算資源についての国内基盤整備と官民の各主体が共有して活用できる新たな枠組を整備するべきである。
2.行政における徹底したAI利活用の推進
- 行政サービスのAI活用の具体例として、国会答弁の下書き作成など短期間で成果の見える複数のパイロットプロジェクトに直ちに着手するとともに、必要な指針等を策定するべきである。
3.民間におけるAI利活用を奨励・支援する政策
- 基盤モデルのAIが様々な国内産業に与える影響に関して早急に調査を行うべきである。
- AI新時代に適合した人材育成に向け、リスキリングを含めた企業のAI人材の活用・処遇に関する取組を支援するべきである。
4.AI規制に関する新たなアプローチ
- 本年のG7サミット等の国際協議の機会を活用し、AI利用を巡る国際的なルール作りの議論に積極的かつ戦略的に参画するべきである。
- 重大な人権侵害、安全保障、民主主義プロセスへの不当介入等、法規制を含む対策が必要と考えられる分野につき具体的な検討を行うべきである。
- 公教育のカリキュラムの中でAIリテラシーの向上を具体的に位置付けるとともにAIの取り扱いに関する指針を早急に策定するべきである。
4-3.「web3ホワイトペーパー」概要
(web3プロジェクトチーム)
この一年、日本のweb3政策は驚異的なスピードで進展してきた。ブロックチェーンビジネスをする上で予見可能性が高く、成熟したマーケットを目指す観点から、以下の提言に沿って引き続き責任あるイノベーションを政策面で強力に推進していただきたい。
<主な提言内容>
- 国際的なルール策定:2023年(令和5年)G7でリーダーシップを発揮し、web3の将来性を見据え、技術中立的で責任あるイノベーションへ主導的な立場を明確にすべきである。
- 税制改正:保有する他社のトークンの期末時価評価課税から短期売買目的でないものを除外し、取得原価で評価すべきである。具体的な除外方法はいくつかの選択肢があるが、今年確実に実現すべきである。
- 監査機会の確保:企業会計基準委員会において会計処理基準の整備、ガイドラインの策定等を急ぐべきである。本年1月から始まった日本公認会計士協会と業界の勉強会を関係省庁も適宜後押しし、情報共有や必要なガイドライン策定等の取組を進めるべきである。
- DAO[34]:合同会社をベースにLLC(有限責任会社)型のDAO特別法を制定し、会社法上の規律や金融商品取引法上の規律を一部変更して適用すべきである。
- 各種トークンの審査・発行・流通:金融庁の協力のもと、CASC制度[35]の適用対象外となるトークン審査において、トークンの状況に応じた形で、トークン審査事項・項目の具体化・可視化を進めるべきである。
- 消費者保護:経済産業省による海外プラットフォームへの申入れの実験や業界団体によるコンテンツに係る権利情報の記録等の試みを引き続き推進・奨励していくべきである。
4-4.デジタル人材育成の推進に関する提言「未来を支えるデジタル人材の育成戦略」概要
(デジタル人材育成プロジェクトチーム)
デジタル人材の育成・確保に関する施策の更なる充実・活性化を行い、AI共存社会においても「テクノロジーをビジネスに展開していく人材」を育成・確保していくためデジタル人材育成 PTにおいては以下を提言する。
- デジタル人材育成を担う全体的な司令塔機能を設置し、各省庁で実施している様々な取組を有機的につなぎ合わせ、好循環に導いていけるようPDCAサイクルを回す体制・仕組みを構築するとともに、デジタル人材育成に向けたスキルや労働市場における人材ニーズを整理する。また、デジタル人材育成に関する施策について進捗管理を行っていく。
- 全国民のデジタルリテラシー向上のためITパスポート試験の取得に向けた支援を推進していく。
- 企業に向けた支援としては、従来から推進してきた施策に加え、企業間での「実践の場」を提供することを後押しするようなインセンティブの検討、金融機関がデジタルに係る企業支援を行えるよう取引先企業のデジタル経営支援を促進すること等、金融機関とも連携した取組を推進していく。また、コーポレートガバナンス・コード等の活用による企業のデジタル人材育成に関する情報開示の充実など、具体的な施策を進めていく。
- 教育機関に関しては、AI等の最新技術を教育に早期に反映する仕組みづくりを構築し、全世代が学ぶことができるよう国が支援していく。また、女性のデジタル人材の育成についてもスキルの習得から就労まで一気通貫の取組への支援等、多様な働き方の実現と併せて推進していく。
- 地域においては、地方自治体やインフラ分野等における好事例の横展開等も進めていくとともに、デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)において事業の遂行に必要なデジタル人材の確保に要する事項も明確化する。
以上の取組によりデジタル化社会における人材の育成を促進していけるよう新設する司令塔の下官民が連携し好循環に導いていけるよう取り組んでいく。
4-5.「サイバーセキュリティ強化のためのデジタル政策面からの提言」「国際連携・官民連携とわが国のレガシーの発展的活用」概要
(デジタルセキュリティに関するプロジェクトチーム)
昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略を含む安保3文書では、サイバーセキュリティの対応能力向上を最重要課題の一つと位置付けている。当PTでは、関係省庁・主要国当局等とのヒアリングや議論を通じて、デジタル政策面から以下の点を提言する。
- サイバー空間には国境の壁や官民の境界がない。また、現代のハイブリッド戦では、物理的な戦闘の前にサイバー空間での攻撃が先行する傾向が強まっている。こうしたことを踏まえると、サイバーセキュリティ強化のためには、国際的な連携や国内における官民の連携を強化するべきである。
- 東京オリンピック・パラリンピック大会において、4億5000万回にも及ぶサイバー攻撃を遮断し、システム面での大きな混乱を未然に防止した成果は、国際的に高い評価を受けている。これは、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が20年間にわたって積み上げてきた官民連携・国際連携や政策・運用両面での司令塔としての経験の成果であり、わが国として、このレガシー(受け継ぐべき業績)を最大限に活用するべきである。
- デジタル庁は、わが国全体のデジタル化を担うべき標準化部門として、NISCが発展的に改組される新組織や、個別のインフラ・制度等を担当する関係省庁との強い連携のもとで、官民のデジタル基盤の強靭化において主導的な役割を果たすことが求められる。その際に必要な対応は、技術・管理・運用等の物理層、SBOM[36]等のソフト層、情報区分とセキュリティ・クリアランス等のデータ層・人的層、ディスインフォメーション対応等のコンテンツ層、運用ガバナンス層、国際連携層、に分けて検討し、実施していくべきである。
政府は、こうした取組を広報や普及啓発活動などを含めた開かれた形で推進し、「サイバーセキュリティ・フォー・オール」の精神を広く国民に普及させることも重要である。
当PTでは、こうしたデジタル面での取り組みの推進が、国家安全保障戦略上の取り組みと並行して進められることで、より実効的で強力なサイバーセキュリティ体制の構築につながるものと確信する。
ヒアリングリスト
本提言のとりまとめに当たっては、政府又は民間企業からの最新の動向・課題分析等のヒアリングを重ねてきた。コロナ禍を経験したことによりリアルの会議に加えて、リモートでの会議も頻繁に行い、世界中の第一任者との議論を重ねることができた。
(本部のヒアリングリスト)
<2023年2月15日(水)8:00~>
- デジタル社会の実現に向けたデジタル庁の今後の戦略について(デジタル庁)
<2023年3月1日(水)8:30~>
- DMP導入検討について・窓口SaaSについて (デジタル庁)
- 海外のDMP等の状況について(awake株式会社)
- 2025年自治体標準化・ガバメントクラウド活用に向けた構造転換について(一般社団法人ソフトウェア協会)
<2023年3月8日(水)7:45~>
「自治体システム標準化の対応状況について」
- 先行標準化自治体からのヒアリング(神戸市)
- 標準準拠システム及びガバメントクラウドの利用に向けた取組の状況について(富士通株式会社)
- 自治体システム標準化の進捗と対応状況等について(デジタル庁)
<2023年3月15日(水)7:45~>
「政府情報システム等における保守運用に関する課題について」
- デジタル庁システムの保守運用体制の課題(デジタル庁)
- 地方公共団体情報システム機構システムの保守運用体制の課題(地方公共団体情報システム機構)
<2023年3月22日(水)7:45~>
- 法人ベース・レジストリと制度的課題について(デジタル庁)
<2023年4月6日(木)8:00~>
1.各府省庁及び地方自治体のネットワークの現状・課題・今後の取組について
(デジタル庁、地方公共団体情報システム機構)
2.民間企業のネットワークの現状と課題・今後の取組、行政機関の取組への提案(NTTコミュニケーションズ、BBIX株式会社)
<2023年4月12日(水)8:00~>
「国と地方のガバナンスについて」
(一般財団法人あなたの医療代表理事兼 神奈川県医療危機対策統括官・こども家庭庁参与・厚生労働省医政局参与、福岡市市長)
<2023年4月14日(金)8:00~>
- データ戦略としてのデジタル基盤整備について(独立行政法人情報処理推進機構、日本経済団体連合会)
<2023年4月26日(水)16:00~>
- データ利活用推進の取組について(一般社団法人データ社会推進協議会)
<2023年4月27日(木)16:00~>
- 「クラウドによる日本のDXの実現-AI、Web3.0、デジタルセキュリティ、デジタル人材育成へのAWSの支援について」(Amazon Web Services, Inc.)
<2023年4月28日(金)8:00~>
- 「インバウンド1億人時代を見据えたクレジットカードによるタッチ決済の普及について」 ~自動改札機を利用した鉄道乗車の実証実験について~
(ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社、三井住友カード株式会社、株式会社ジェーシービー、American Express International)
デジタル社会推進本部役員表
令和5年2月16日
最高顧問 甘利 明
顧 問 石田 真敏 伊藤 達也 岩屋 毅 小林 鷹之 佐藤 勉 柴山 昌彦 新藤 義孝 棚橋 泰文 渡海紀三朗 山口 俊一 山下 貴司 世耕 弘成 鶴保 庸介 松山 政司 山谷えり子
本 部 長 平井 卓也
本部長代理 平 将明 宮下 一郎 赤澤 亮正
副本部長 伊藤信太郎 大野敬太郎 越智 隆雄 関 芳弘 鈴木 馨祐 橘 慶一郎 橋本 岳 藤井比早之 松本 洋平
西田 昌司 古川 俊治
幹 事 長 牧島かれん
事務局長 小林 史明
事務局長代理 山田 太郎
常任幹事 森屋 宏(内閣第一部会長) 神田 憲次(内閣第二部会長)
國場幸之助(国防部会長) 武村 展英(総務部会長)
宮﨑 政久(法務部会長) 堀井 巌(外交部会長)
中西 健治(財務金融部会長) 中村 裕之(文部科学部会長)
田畑 裕明(厚生労働部会長) 武部 新(農林部会長)
滝波 宏文(水産部会長) 岩田 和親(経済産業部会長)
津島 淳(国土交通部会長) 三宅 伸吾(環境部会長)
幹 事 今枝宗一郎 新谷 正義 佐々木 紀 細田 健一 三谷 英弘 宮路 拓馬
和田 政宗
事務局次長 川崎ひでと 神田 潤一 小森 卓郎 瀬戸 隆一 塩崎 彰久
鈴木 隼人 土田 慎 平沼正二郎 山口 晋
赤松 健 小林 一大 友納 理緒
(デジタル社会推進本部 防災DXPT 役員)
令和4年10月7日
座 長 赤澤 亮正
副 座 長 松本 洋平 大野敬太郎 藤井比早之
幹 事 今枝宗一郎 新谷 正義 宮路 拓馬 神田 潤一 土田 慎
小林 一大
事務局長 山田 太郎
事務局次長 川崎ひでと
友納 理緒 若林 洋平
(デジタル社会推進本部 AIの進化と実装に関するPT 役員)
令和5年1月25日
顧 問 渡海紀三朗
座 長 平 将明
座長代理 うえの賢一郎
副 座 長 越智 隆雄 関 芳弘
古川 俊治
幹 事 長 大野敬太郎
事務局長 塩崎 彰久
事務局次長 川崎ひでと 神田 潤一 土田 慎 平沼正二郎 山口 晋
赤松 健
(デジタル社会推進本部 web3PT 役員)
令和4年10月27日
座 長 平 将明
副 座 長 越智 隆雄 鈴木 馨祐 山下 貴司
幹 事 佐々木 紀 細田 健一 三谷 英弘
事務局長 塩崎 彰久
事務局次長 川崎ひでと 神田 潤一 小森 卓郎 土田 慎
(デジタル社会推進本部 デジタル人材育成PT 役員)
令和4年11月25日
座 長 片山 さつき
副 座 長 柴山 昌彦
幹 事 田畑 裕明
事務局長 川崎ひでと
事務局次長 平沼正二郎 勝目 康
(デジタル社会推進本部 デジタルセキュリティに関するPT 役員)
令和4年11月25日
座 長 牧島 かれん
幹 事 大野敬太郎 小林 鷹之
事務局長 神田 潤一
事務局次長 平沼 正二郎 山口 晋
山本 啓介
別添1.「防災DXの推進に関する提言」
【略】
別添2.「AIホワイトペーパー」
【略】
別添3.「web3ホワイトペーパー」
【略】
別添4.「デジタル人材育成プロジェクトチームの提言」
【略】
別添5.「サイバーセキュリティ強化のためのデジタル政策面からの提言」
[1] デジタルマーケットプレイス(DMP):多様な事業者がサービスをカタログサイトに登録し、様々な行政機関がその中から要件に基づいて検索・選定することで簡易に調達できる仕組み。
[2] EBPM:(Evidence-Based Policy Making)証拠に基づく政策立案。
[3] ハイブリッド戦争:多種多様な手段を使い、政治目的を達成するために情報戦、心理戦を強く意識したサイバー攻撃や情報戦等と武力攻撃等を組み合わせた軍事戦略の手法。
[4] web3:次世代インターネットとして注目される概念、巨大なプラットフォーマーの支配を脱し、分散化されて個と個がつながった世界。
[5] ICT: Information and Communication Technology、情報通信技術
[6] IoT : Internet of Things、 従来インターネットに接続されていなかった様々なモノ(センサー機器、駆動装置 (アクチュエーター)、 住宅・建物、車、家電製品、電子機器等) が ネット ワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組み
[7] NFT:Non-Fungible Token、非代替性トークン。ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位。画像・動画・音声及びその他の種類のデジタルファイル等、容易に複製可能なアイテムを一意なアイテムとして関連付けられる。
[8] ベース・レジストリ:公的機関等で登録・公開され、様々な場面で参照される、人、法人、土地、建物、資格等の社会の基本データであり、正確性や最新性が確保された社会の基盤となるデータベース。
[9] API:Application Programming Interface、ソフトウェアコンポーネント同士が互いに情報をやりとりするのに使用するインターフェースの仕様。
[10] SaaS:Software as a Service、利用者に、特定の業務系のアプリケーション、コミュニケーション等の機能がサービスとして提供されるもの。
[11] PaaS:Platform as a Service、IaaSのサービスに加えて、OS、基本的機能、開発環境や運用管理環境等もサービスとして提供されるもの。
[12] IaaS:Infrastructure as a Service、利用者に、CPU機能、ストレージ、ネットワークその他の基礎的な情報システムの構築に係るリソースが提供されるもの。
[13] 公金受取口座登録法:公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和3年法律第38号)。
[14] アジャイル:直訳は「素早い」、「機敏な」という意味。システム開発やソフトウェア開発で用いられる手法で、実装とテストを繰り返して開発していくというもの。複雑になっている社会課題により柔軟に対応し、スピード感を持って答えを出す。
[15] 三層分離:業務に利用するデータ保管やシステム構築されている領域と、外部インターネットの接続やサービスを提供する部分を分離することで、セキュリティを高めるとする仕組み。
[16] ゼロトラスト:「何も信頼しない」を前提に対策を講じるセキュリティの考え方。
[17] UI:User Interface、利用者が機械、特にコンピュータとその機械の利用者の間での情報をやりとりするためのインターフェース。
[18] UX:User Experience、利用者が商品やサービスを通じて得られる体験。
[19] NIST:National Institute of Standards and Technology、米国商務省配下の技術部門であり非監督(non-regulatory)機関。
[20] GAIA-X:2019年(令和元年)10月にドイツ政府・フランス政府が発表した、セキュリティとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのインフラ構想。
[21] Catena-X:2021年(令和3年)3月に欧州で立ち上がった、自動車産業全体でサプライチェーンに関するデータを共有するプラットフォーム。
[22] カーボンフットプリント制度:商品のライフサイクル全体で排出された温室効果ガスを二酸化炭素の排出量に換算して見える化する仕組みの1つ。
[23] サーキュラーエコノミー:市場のライフサイクル全体で、資源の効率的・循環的な利用とストックの有効活用を最大化する社会経済システム。
[24] デジタル製品パスポート:デジタル技術により、個別の商品に関する原材料調達からリサイクルに至るまでの製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティを確保することを可能とする情報。
[25] デジタルアーカイブ:有形・無形の文化財をデジタル情報として記録し保存するとともに、ネットワーク等を用いて提供すること。
[26] データポータビリティ:特定のサービスやアプリケーションに蓄積してきた個人データ(個人情報)を、当該サービスから他のサービスへと容易に移動・移行できること及びその容易さの度合いのこと。
[27] デジタル手続法:情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年5月31日公布)。
[28] ガバメントソリューションサービス(Government Solution Service、GSS):政府共通の標準的な業務実施環境(パーソナルコンピュータやネットワーク環境)。
[29] BCP:Business Continuity Planning、災害やシステム障害、サイバー攻撃等の緊急事態における企業や団体の事業継続計画。
[30] 公的個人認証サービス:インターネット上での本人確認に必要な電子証明書を住民基本台帳に記載されている希望者(日本国内に住民票のある日本国民及び在留カード所持住民)に対して、無料で提供するためのサービス。
[31] LGWAN:Local Government Wide Area Network、総合行政ネットワーク。地方公共団体の組織内ネットワークを相互に接続し、地方公共団体間のコミュニケーションの円滑化、情報の共有による高度利用を図ることを目的とする行政専用のネットワーク。
[32] 公共サービスメッシュ:行政オンラインサービスを支える新たな情報連携の仕組みとして、デジタル庁が、2025年度中の稼働に向けて設計・開発を進めており、様々なユーザーやフロントサービスと、行政のシステムやデータとを、円滑かつ安全に連携できるようにするもの。
[33] 基盤モデル:GPTやBert等、大規模な一般データを使って事前学習を行い、その後再トレーニングを通じた微調整を通じて幅広いタスクに適応できる機械学習のモデルをいう。
[34] DAO:Decentralized Autonomous Organization、分散型自立組織、中央集権的な管理者がいない。
[35] CASC制度:Crypto Asset Self Check制度。一定の要件を満たす会員について、日本暗号資産取引業協会による事前審査を行う場合を限定する制度。
[36] SBOM:ソフトウェアの部品構成表。Software Bill of Materials。
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