大規模太陽光発電事業の地域共生・規律強化に関する提言
大規模太陽光発電事業の地域共生・規律強化に関する提言
〔経済産業部会・環境部会・文部科学部会・農林部会・国土交通部会 提言〕
令和7年12月16日
自由民主党 政務調査会
2012年のFIT制度開始以降、我が国の太陽光発電事業は急速に拡大し、エネルギーの自給率向上や低炭素化に貢献した。他方、地域共生上の懸念が顕在化している事例も発生し、広く関心を集めている。
再生可能エネルギーの導入にあたって、地域との共生、環境への配慮が大前提である。事業の実施に当たっては、わが国が古来より育んできた美しい国土を保全すること、及び森林伐採や不適切な開発による環境破壊・災害リスクを抑制することが不可欠である。
現在、太陽光発電事業に関して、再生可能エネルギー特措法(FIT/FIP制度)に加えて、安全性、景観、自然環境、生活環境等の観点から、公益確保との調整を行う16以上の関係法令が存在しているが、不適切な太陽光発電事業を防止するには、これらの関係法令を適切に機能させることが不可欠である。このため、これらの関係法令について総点検を行い、現在の規制の網の目に抜けがないかを確認し、顕在化している問題のある事案を今後生じさせないよう、実効性のある規制に向け強化・適正化を行う必要がある。その際、国と自治体が緊密に連携を図りつつ、規制制度を厳格に運用していくことが重要である。併せて、我が国の中長期的なエネルギー需給構造の見通しやエネルギー政策全体における再生可能エネルギーの位置づけ等を踏まえて、太陽光発電事業に対する国の支援について、技術の進展状況や現在の地域共生上の課題などを考慮に入れて重点化を行っていくべきである。
こうした問題意識の下、本合同会議として、政府に対して以下の諸点を速やかに実行するよう提言を行う。
1.不適切事案に対する法的規制強化
不適切な太陽光発電事業に対して、自然・環境保護、安全確保などの観点から、他の開発に対する規制措置との均衡や、事業者の予見性確保などにも留意しつつ、実効的な法的規制の強化・適正化を行うこと。
<具体的項目>
- 事業者が事業の初期段階において実施場所を検討するに際し、各種の土地利用規制に係る区域(森林、農地等)が重要であることから、国と地方が連携し、当該区域設定を適切に行うこと。併せて、各自治体が再生可能エネルギー導入を促進するエリアについても、各地域の実情に応じ、地球温暖化対策推進法に基づく再生可能エネルギー導入の促進区域の適切な設定等を支援すること。
- 環境影響評価法及び電気事業法に基づく環境アセスメントにおいて、その対象となる事業規模の見直しを行うとともに、電気事業法に基づきアセスメント結果に沿った指導の徹底を図ること。
- 電気事業法に関し、事業の安全性確保の観点から、保安規制の強化を図ること。
- 令和8年4月に施行される改正森林法に関し、林地開発許可制度の規律強化の観点から、施行に向けた準備を確実に進めること。
- 種の保存法に関し、大規模太陽光発電所が希少種の生息・生育地の保全に与える影響等を踏まえ、重要な生息地の保護区指定を促進するとともに、必要な規制強化を図ること。
- 現在すでに開発に着手されたものであっても、法令が遵守され、地域共生が確保されるよう、森林法、文化財保護法、土壌汚染対策法、盛土規制法をはじめとする各種の関係法令の規制を総動員し、厳格に対応すること。
- 関係法令違反を覚知したFIT/FIP認定事業については、速やかに交付金一時停止措置を講じる等、引き続き、FIT/FIP制度の厳格運用を行うとともに、必要な執行体制の強化を図ること。
- 2030年代後半から大量排出が見込まれる事業終了後の太陽光パネルについて、適切な廃棄、リサイクルが確保されるよう、既存制度の厳格な運用及び実効的な制度整備を進めること。あわせて、リサイクル費用低減に向けた技術開発や、リサイクル設備の導入等への支援を行うこと。
- サイバーセキュリティ強化の観点から、JC-Star制度の更なる活用を図ること。
2.地域の取組との連携強化
太陽光発電事業への適切な法的規制の実行にあたって、国と自治体との緊密な連携が重要である。その際、国は、各自治体の取組に関し、自治体任せにすることなく、国と地方の適切な役割分担のもと、各種の法的規制に基づく事務が実効的かつ円滑に行われ、地域の実情や地域固有の価値に応じた規制がなされるよう必要な環境整備に取り組むこと。
<具体的項目>
- 太陽光発電事業への適切な法的規制の実効性を強化するために、国と地方とが緊密に連携し、必要な情報共有を行うこと(関係法令の総点検結果や対応方針、条例、法定外目的税、事業を開始した事案に対する実効的な取組例など自治体における先進的な取組など)。
- 景観法に基づく各種制度の活用が各自治体において促進され、好事例が横展開されるよう、自治体への周知・連携強化を行うこと。
- 文化財保護法に関し、市町村が事業者から天然記念物の保存に及ぼす影響に関する相談を受けた際、その対応が天然記念物の保存の観点から適切なものとなるよう、留意事項を分かりやすく整理し、自治体に周知すること。
- 全国各地の太陽光発電事業に関し、関係法令違反が確認された場合、基礎自治体から都道府県、関係省庁間に速やかに違反内容が共有され、現地調査が行われるよう、関係行政機関の垣根を越えた監視体制の構築・強化を図ること。
3.地域共生型への支援重点化
再生可能エネルギーの拡大は、脱炭素に加えて、化石燃料の輸入により年間約24兆円もの貿易赤字が生じている現状において、エネルギー自給率を高め国富流出を抑止する観点から、引き続き進めていく必要がある。特に、GX・DX等の進展によって電力需要の増加が見込まれる中で、脱炭素電源の確保は、産業立地競争力の観点からも重要である。
太陽光発電事業は、法令違反など問題のある案件は厳格に規律する一方で、地域に共生し地域の立地競争力強化に資するものはしっかりと推進していくことが必要である。その際、税制や予算等による国の導入支援についても、地域共生や環境配慮がなされるものに重点化を図り、進めていくことが必要である。
<具体的項目>
- メガソーラーについては、技術の進展状況等を踏まえればFIT/FIP制度による導入促進を行う必要性は既に乏しく、その導入を進めることによる地域共生上の課題等も勘案し、今後の支援について廃止を含め検討を行うこと。その上で、太陽光発電事業に対する今後の支援は、屋根設置型太陽電池をはじめとした地域との共生が図られる導入形態(公共施設、公共インフラ空間等)や、ペロブスカイト太陽電池やタンデム型太陽電池(ペロブスカイトやカルコパイライト太陽電池等を積層させ高い発電効率を実現する新技術)などの次世代型太陽電池などに重点化させること。
- 特に、工場や商業施設等の屋根に設置する太陽光発電については、その設置可能性を事業者が把握し、計画的に活用する仕組みを設けるとともに、蓄電池などの活用も含めた支援措置を講じることで、屋根の設置ポテンシャルを最大限有効活用すること。
- 営農型太陽光については、農業との両立が図られた望ましい事業に対しては支援を継続する一方で、農業との両立が図られない等の不適切な事業に対しては厳格に対応すること。
- 国等における電力供給契約について、法令に違反する発電施設で発電された電力の調達を避けるよう指針を定めること。これを通じて、再生可能エネルギー電気の調達を行う民間企業や資金供給を行う金融機関に対しても、その社会的責任として、同様の対応を促していくこと。
- 導入済みの太陽光発電について、メンテナンス、リプレース等を含め適切な事業実施を行う能力と地域の信頼を得られる責任ある主体への事業の集約を促していくこと。