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提言全文:エネルギーの安定供給確保及び海上輸送途絶対策に向けた緊急提言

エネルギーの安定供給確保及び海上輸送途絶対策に向けた緊急提言

(イラン情勢に関する関係合同会議)

 

令 和 8 年 3 月 1 2 日
自由民主党 政務調査会

1.基本認識

 
 2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃後、イランによる反撃は中東の周辺諸国にも及び、事態は長期化するとの見方も出ている。シーレーンの安全確保については、海賊対処行動や海洋状況把握(MDA)の強化に向けた各国・機関との協力を含め、これまで関係各国と協調してきたが、このようなイラン情勢の緊迫化・長期化、とりわけ、イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡の事実上の閉鎖等により、日本人船員が乗船する日本関係船舶がペルシャ湾内に取り残されている。まずもって、これら日本関係船舶及び乗組員の安全の確保に政府は万全を期すべきである。
 こうした事態を受け、原油価格が乱高下を続けている。原油の93%をホルムズ海峡経由で輸入している我が国にとって、ホルムズ海峡は我が国経済・社会の「生命線」であり、ここを長期間、封鎖されることによる影響は極めて甚大である。政府は、このようなリスクを想定して、これまで、官民合わせて約8か月分と世界的にも高い水準の石油備蓄を積み上げてきた。
 一方で、「量」では8か月を持ちこたえたとしても、「価格」の面では、国際的な原油価格が上昇している中で、この状況が長期化すると、ガソリンなどの石油製品価格や電気料金・ガス料金の上昇につながり、ひいては食料品、生活用品等の物価にも影響が及ぶ。また、今週初めには日経平均が急落するなど、株、円、債券のトリプル安に見舞われるなど、金融市場も不安定化している。さらに、消費者心理が一気に冷え込むこととなれば、高市政権が力強くけん引する日本経済の成長戦略にブレーキをかけることになり、国民生活・経済活動を圧迫しかねない。
 さらに、今回のホルムズ海峡の事実上の封鎖が改めて我が国に突き付けたのは、原油の中東依存度の高さだけではない。エネルギーのみならず、食料やあらゆる物資の輸入を99%以上、海上輸送に依存する我が国にとって、今回のような有事に対して、例えば、民間の船舶保険を補完する政府の再保険の仕組みはできているのか、必要な船舶・船員の確保はできているのか、長期の海上輸送の混乱が続いた場合、我が国の国民生活や経済活動を停止に追い込む物資について、十分な対策が取られているのかなど、今一度、経済安全保障の観点から、十分な自律性と強靭性、対応力を準備できているのか、政府を挙げて、徹底的に「リスク点検」を行い、必要な対応を講じるべきである。
 以上の基本認識に基づき、イラン情勢に関する関係合同会議としては、(1)今回のイラン情勢の緊迫化・長期化が国民生活及び経済活動に及ぼす影響を最小限に抑え、国民生活を守り抜くため、「量」と「価格」の両面において緊急に取り組むべきこと、(2)現下の情勢に限らず、これを契機として今後想定されうる様々な有事を起因とする海上輸送途絶対策について、経済安全保障の観点から時間軸を持って包括的に整理しておくべきこと、この2点について以下の通り、政府に対して提言する。
 

2.エネルギーの安定供給確保に向けて緊急に取り組むべき事項
(「量」に関する対策)

 
(1)石油やLNGに関する代替調達先・代替ルートの確保
○ 石油は、自動車をはじめ、幅広い燃料用途や、メタノールやエチレンなどの石油化学製品の原材料としての用途を持ち、国民生活・経済活動に不可欠なものである。石油供給に支障が生じないよう万全を期すべく、緊迫化したイラン情勢の長期化に備え、石油元売りや商社、さらには産油国とも連携を取りつつ、ホルムズ海峡を経由しない代替調達先や代替ルートの確保など、機動的かつ迅速に対応すること。
○ LNGについては、ホルムズ海峡を経由する輸入は我が国の輸入量全体の6%程度であり、電力・ガス会社はホルムズ海峡を経由して輸入されるLNGの約1年分に相当する400万トン弱の在庫を現在有していることから、短期的には電力・ガスの安定供給に支障を生じる状況にはないと考えられる。しかしながら、事態が長期化・深刻化するリスクに備え、LNGの安定供給に支障が生じないよう、他の地域からの供給の増加やスポット市場からの代替調達の増加、必要に応じて事業者間の融通など、官民連携して対応すること。

(2)石油備蓄の機動的な活用
○ 今般政府が決定した石油備蓄の放出に当たっては、備蓄基地を運営・管理するJOGMECや石油元売りとの間で緊密に連携しつつ、迅速に放出を行うことで、石油の安定的な供給を確保すること。

○ その後も必要があれば追加の備蓄放出を躊躇なく実施することも含め、情勢の変化に応じて、機動的に対応できるよう万全の準備を行うこと。

○ 石油備蓄の活用に当たっては、現下の情勢を踏まえ、石油精製業者等と連携しつつ、備蓄状況を日々把握して、各地域の安定供給に支障が出ることのないよう、迅速かつきめ細やかに対応すること。

○ 国民の安定供給に対する不安・懸念を払拭するため、備蓄の現状について、適時に推計値を公表すること。
 

(「価格」に対する対策)
 
(3)国際石油市場の安定化に向けた緊密な国際連携
○ 国際的な原油市場の安定化に向けて、今般合意された備蓄の協調放出も含めたあらゆる措置を効果的なタイミングで行えるよう、引き続き、G7やIEAと緊密に連携すること。また、協調放出の効果を高めるため、IEA非加盟国にも協働を働きかけること。

(4)国際的な金融市場に対する政府からの発信
○ 原油市場のみならず、国際金融市場の安定化に向けて、G7や関係国際機関とも連携しつつ、政府として、適時適切に効果的な発信を行うこと。

(5)ガソリン、電気・ガス等の価格高騰対策
○ 物価高対策やエネルギー・資源安全保障の強化を盛り込んだ経済対策や令和7年度補正予算、ガソリン、軽油、重油、灯油、LPガス等の緊急的な激変緩和措置を着実かつ迅速に執行することは言うまでもないが、常に最悪のシナリオを想定し、後手に回らぬよう、ガソリン、電気・ガス等の価格高騰による国民生活や経済活動への影響を可能な限り抑制するべく、予備費の活用を含め、前倒しであらゆる対策を検討しておくこと。

○ 上記の激変緩和措置について国民が正確に理解し、誤った情報に基づくガソリン等の買いだめ等を防止するため、消費者向けの周知・広報等、必要な対策を講じること。
 

3.有事を起因とする海上輸送途絶リスクに対して、早期に取り組むべき事項
 
(1)船舶保険に対する政府再保険等の仕組みの検討
○ 現在のイラン情勢では、事態のさらなる悪化・深刻化があれば、船舶戦争保険に対する欧州の民間保険会社による再保険が付保されなくなる、あるいは保険料が高騰し海上輸送が成り立たなくなるという脆弱性を明らかにしつつある。このような再保険の仕組みは、今後、様々な有事を起因として海上輸送を不安定化させるリスクを内包しており、2012年のイラン特措法を参考にしつつ、原油に限らないLNGや食料など様々な物資・製品の海上輸送を可能とする政府再保険等の仕組みも含め、早急に検討し、必要な対応を講ずること。

(2)海上輸送途絶により国民生活・経済活動を止めうる物資の特定・対策の検討
○ LNGや食料のみならず、医薬品や消耗品など、特定国に依存していて、海上輸送途絶の長期化により、国民生活や経済活動が止まりうる物資を特定し、備蓄や国内生産、代替調達先の開拓など、必要な対策を早急に講ずること。

(3)安定航路の確立に向けた国際連携
○ 政府は、今回のような有事における海上輸送の安定航路の確立に向けて、関係国や国際機関と連携して取り組むこと。

(4)平時からの海運事業等とのコミュニケーション強化
○ 海上輸送途絶の長期化を見据え、政府は、平時から海運にかかわる事業者や船員組合の方々とのコミュニケーションを密にすること。

以 上