遠隔医療のいま:技術革新と電波がカギとなる医療の未来
最近のテレビドラマは「ドクターX」や「コウノドリ」、「救命病棟24時」シリーズなど、医療モノが人気作品の定番になっていますね。そのなかでは最先端の医療技術も紹介され、あるドラマでは、外国の名医が母国にいながら、日本にあるロボットを使って日本人の患者を手術するシーンも出てくるようになりました。
現実には外国の医師が遠隔の医療ロボットを使い日本国内で治療するのは、日本の医師法で認められていません。しかし、医師が通信機器を駆使して自宅にいる患者を診療する「遠隔医療」の近年の発達はめざましく、高齢化や医師不足に直面する地域医療の支えとして期待がふくらみます。
国としても昨年6月に閣議決定した未来投資戦略で、遠隔診療が、対面診療との組み合わせで、診療報酬の評価対象とすることになりました。
8Kの高精細映像に驚き。最新の取り組み視察
さて、遠隔医療の最新事情はどうなっているのでしょうか。4月2日、神奈川県藤沢市にある慶應義塾大学SFCに隣接する湘南慶育病院の実証実験を視察にうかがいました。こちらの病院では、「8K」などの高精細映像技術を活用した遠隔在宅医療の実証実験に取り組んでいます。
(慶應SFCの村井純教授による解説)
同病院のコンセプトは「ICTの力で自宅でも病院内と同等の医療サービスを」。院内の医師と自宅など院外にいる患者をつないで「未病」段階の方や患者に適切な医療サービスの提供を目指しています。このうち「未病」段階というのが最初のポイントです。ヒトの体の状態は、「健康」と「病気」を振り子のように行き来するのではなく、「病気というほどではないけど調子がよくない」というようなプロセスがあります。
その「未病」段階で早めに予防措置をすることで健康寿命を延ばすことが、長い目でみて医療費の抑制につながります。慶育病院の実験は病院に行く前の段階で適切な診療措置を施しており、健康管理についても、体重計や血圧計などの医療デバイスをIoTでつなぎ、テクノロジーが苦手なシニアにも使い勝手がいいように自宅のテレビで集約できるようにしています。
また、これはあくまで「将来構想」ですが、患者宅から送られてきたデータを蓄積し、AIも活用することで、さらに効率的・効果的な予防医療が期待できます。
それにしても、医療における8Kカメラの活躍は目を見張るものがありました。実際に病院と患者役の方が待機する施設とをつないで行ったデモ治療を拝見し、とても驚いたのですが、映像の精度が高まれば高まるほど、唇や皮膚、網膜などの状態は一目瞭然でした。
(せっかくなので2K→4K→8Kでの違いを画像でご覧ください)
「4K」は現行ハイビジョンの4倍、8Kは16倍の画素数になりますので、自分の目で見てみると、立体感、臨場感の違いを実感します。放送では、2年前からBSの試験放送を始めており、今年12月にはいよいよ、NHKや各民放局による本放送がスタートしますが、今後、医療分野への「8K」導入を求める動きはますます強まるでしょう。
医療の場合は、単に画像が綺麗になること以上に、患者の身体・生命にかかわりますので、高精細画像への現場のニーズは切実であることを改めて認識しました。
(村井先生、院長の松本純夫先生ほか皆様と意見交換)
電波行政からみた「5G/8K」医療の課題
このほかにも今回の実験では、課題もみえてきました。慶育病院からの報告によれば、テレビのようになじみのあるデバイスを中心に使うとはいえ、患者のほうにも機器の取り扱いについて一定の知識を要すること、医師法や診療報酬などの制度的な課題、遠隔医療を社会的に受け入れられるかといったことが挙げられます。
実験で一定の見通しは立ったものの、IoT時代の大きな脅威であるマルウェアや外部からの攻撃から、セキュリティを確保し続けられるかも重要な課題であり続けます。
また、10年単位で技術革新の行く末を展望すれば、電波行政的にも課題がでてくる可能性があります。5Gで通信速度があがり、8Kで高精度の映像データがやりとりできるようになったとしても、全国各地で遠隔医療を展開するとなれば電波利用のニーズがそれだけ高まります。
落合陽一さんのベストセラー『日本再興計画』では、5G普及によるロボット手術の未来像が提示されていますが、遠くない将来、遠隔医療が、予防医療から診察や手術のようなレベルにまで技術的に可能になったとき、その時代の電波ニーズにふさわしい帯域利用のあり方が問われる局面があるかもしれません。
複雑化・高度化している高齢化・医療・社会保障の問題は、医師だけ、行政だけ、技術者だけといった縦割りの発想だけでは、実効性のある解決策が進めづらくなっており、それぞれの知見を統合して推進しなければなりません。今回の現場視察では、心強い未来への可能性とともに、私自身が向き合う課題の大きさも再認識することになりました。
現場視察の貴重な機会をいただいた、慶育病院の松本純夫院長先生、慶應SFCの村井純教授、実験に携わっている関係者の皆様、ご協力ありがとうございました!
■お知らせ
私たち若手議員の取組みを描いた本が出版されました。一昨年の年末、高齢者への3万円の給付に私や小泉議員が異論を唱えたところからスタートし、 高木 新平 (Takagi Shimpei) 君に手伝ってもらった「レールからの解放」・「厚労省分割案」・「人生100年時代の社会保障へ」、そして「こども保険」構想へとつながっていった500日。同世代の民間有識者の同志と2020年以降の未来を見据えて議論したいという想いでサポートをお願いし、最後まで粘り強く伴走してくれたRCF 藤沢 烈 (Retz Fujisawa)さんの著書です。
普段テレビや新聞で報道されない、議員の政策立案過程のリアルな姿が見て取れる貴重な本だと思います。ぜひ読んで見てください。