電気通信事業法改正案閣議決定 携帯料金はどうなるのか
先週、総務省の有識者会議が、消費者の保護を目的として、携帯電話の「端末実質0円」「x万円キャッシュバック!」など、極端に好条件な広告の表示について、自主規制を強化するよう、通信業界に求める中間報告書案をまとめたことを公開しました。
これは、さらにその前の週に閣議決定された「電気通信事業法改正案」をベースに省令の策定に向けて詰められている議論で、昨年まで務めた総務大臣政務官時代に心血を注いだ改革が着実に前に進んでいることを実感する一方で、この先が気になって仕方がありません。
「法案の改正」の閣議決定がメディアなどで報じられるときは、改正の目的や方向性、概要が閣議で決まりました、という意味で、細かいルールはその所管の省庁によって作られて行きます。今回改正が閣議決定した電気通信事業法改正案も、まだ詳細が決まっていないこともあるため、伝わり方に少し混乱があったようです。今月に入り、米国のシンクタンク「Progressive Policy Institute」主催の公開シンポジウム「モバイル通信政策~5G時代のイノベーションに向けて~」でのパネルディスカッションや、専門メディアとジャーナリストの皆さん向けのブリーフィングで話す機会がありましたので、皆さんにもポイントを共有します。
今回の法改正のポイントは3つです。
- 通信と端末の分離を徹底し、同じ通信事業者なのに通信料金が端末メーカーによって違うということをなくします。
- 販売代理店を届出制度にして、チェックをしていします。違反があれば罰則を適用します。
- 電話勧誘等で、大手キャリアを名乗りながら違う会社が営業をすることなどへの規制を強化します。
強調したいのは、
- 今回の通信と端末の分離によって、端末補助金が全て禁止になるかということではありません。つまり、端末代金の割引がなくなる、という話ではありません。
- 端末は端末で販売をする際に補助を出すことは可能です。ただ、通信とセット料金でどっちの料金が割り引かれているか、分からないようにして売るのは禁止をします。
ということです。
4Gのスマートフォンが出てきたとき、通信と端末一体での販売方法は、普及にとても寄与しました。同時に、特定の端末について、メーカーと通信事業者の間で結ばれた端末の販売に関する契約に端を発し、通信事業者は端末代金を安く見せることで契約を取るという方に走り出して行きました。その過程で、端末料金と通信料金、それ以外の値段の違いがわかりづらくなり、利用者が通信キャリア同士の料金やサービスの比較をすることがとても難しくなりました。
端末の購入は多い人でも数年に一度ですが、利用者には通信料金や通信事業者のサービスには月々支払いが発生します。購入時はとりあえず安ければ端末でも通信料金でもどちらでもよいと思いがちですが、同じ通信事業者による同じ通信サービスや通信クオリティでも、買う端末によって値段が違う、ということになるのです。
今回の改正でやろうとしていることは、これら通信事業者の競争環境をフェアにすることによって、もう一度、利用者にとって選びやすい環境にし、健全な市場を作ることです。
ただし、この改正によって起こり得る課題もあります。総務省の各種審議会の構成員や電気通信事業政策部会「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会」専門委員を務める吉川尚宏先生から、前述のパネルディスカッションで指摘された通り、モバイルのこの市場競争政策に関する提言、あるいはガイドラインが、2015年以降、ほぼ毎年、総務省、あるいは公正取引委員会でもいろいろな研究会が行われ、指針が出されています。そのたびに通信キャリア、あるいは代理店などのプレイヤーが対応しなくてはならず、いたちごっこになっていることを考えると、各審議会の位置付けや構成メンバーの専門性について、改善の余地があると思います。
また、同パネルディスカッションで、大阪大学大学院 経済学研究科の安田洋祐先生も経済学的な視点で指摘されましたが、端末代に補助を出すことは引き続きできるものの、今回の改正で、一括でしか割引できなくなるので、割引の仕方の多様性が一部損なわれることは否めません。透明化、公平化のメリットと、分離による料金制度の阻害効果、どっちのプラスマイナスが大きかは、今後の省令の設計にかかっています。
世の中からの注目は、料金が本当に下がるかどうかというとことなのですが、2015年のゼロ円端末施策のとき、料金に還元されるという期待感のもとでインセンティブをなくしたものの、その原資は事業者の利益のほうにいってしまい、消費者に還元されなかったという過去があります。それ故、透明性や公平感は増すものの、本当に競争が働くかどうか引き続き注視が必要です。
しかしながら、これらはまさに端末代金と通信料金が一緒に販売されていたことで”下がらなかった”のだと私は考えています。端末側の値段が通信料金側に食い込んでいるので、安くなったのか、高くなったのか消費者から見るとよくわからなかったのです。一般消費者の目が届きにくい、監視が利きにくい仕組みだったのです。
今回の改正により、メリットのわかりづらかったMVNOの格安の通信料も購入時の比較の対象となり、かつ中古端末も今回出てきて、SIMフリーになっていくと、非常に横移動がしやすくなって、通信料金やそのサービスだけで比較しやすくなり、競争を働かせられるようになります。
さらに、今年の秋には5Gも試験的に提供が始まり、4キャリア目ということで楽天モバイルもサービスの提供を開始します。楽天の参入は、モバイル市場がフェアになり、IoT時代の利用者が使いやすい環境にするために、防衛省の使っていない帯域を民間に開放するという電波改革がもたらしたのです。楽天モバイルには既存のモバイル市場の刺激となるビジネスモデルやサービスを期待しています。
私自身は、NTTドコモで法人営業をしていたときに味わった、時代に合わない規制や業界の商習慣がイノベーションや利用者の前向きな選択を阻害していることを変えたくて、政治の世界へ飛び込みました。現在の商習慣や規制は、携帯電話黎明期からスマートフォン普及期に形成されたもので、すぐそこにある5GとIoTベースの未来に向けて、進展し続ける技術と時代とに合ったものにしていかなければなりません。引き続き通信改革にコミットし、高い通信クオリティと利用環境を実現できるよう取り組んでいきます。
前述のメディアブリーフィングからの記事が出ていますので、併せてご参照ください。
ケータイWatch:「電気通信事業法」改正がもたらす“完全分離プラン”とは
Engadget日本版: 日本で5Gの料金体系はどうなる?Verizonの5Gサービス料にみる今後の展開:本田雅一のウィークリー5Gサマリー
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地域課題解決に取り組む際の政治・行政・住民のパートナーシップを、陳情型の昭和フォーマットからポスト平成時代を見据えた共同解決型の”福山フォーマット”へ転換したいと考え、日頃から地域活動に取り組んでいます。具体的に結果を出すことができた事例をブログに書きました https://t.co/FhTf2Z6Wtw
— 小林史明(衆議院議員/広島7区/福山市) (@kb2474) 2018年11月25日