「9月入学制度」の課題と子供たちの学びの保障に関する提言
政府与党内では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う2か月余りの休校により生じている学びを取り戻す選択肢の一つとして、「9月入学制度」についての検討が進められています。「9月入学制度」については、これまでも何度か検討された経緯があり、一定の意義があることは認識されています。しかしながら、様々な課題があるため、先日22日、自民党議員有志60人以上で、拙速な議論に反対すると共に、慎重な検討を求める提言をとりまとめて、岸田文雄政調会長と稲田朋美幹事長代行に申し入れました。
提言の主旨は、コロナ禍の学びの遅れを取り戻すことと、9月入学の議論は、別に議論すべきで、コロナ禍のどさくさに紛れて拙速に結論を出すことではないということです。報道にも大きな関心を持っていただき、まずは9月ありきではない、ということを一石投じ、問題点を伝えることができました。
NHK: 「9月入学」慎重に検討を 自民議員有志が党執行部に申し入れ
TBS: 自民有志、党幹部に「9月入学」反対の提言
FNN PRIME: 9月入学の潮目変化か…宣言解除の中で自民若手らが“拙速”と反対の声 “政高党低”に異変も
TV朝日: 「拙速な議論に反対」9月入学. 自民党内から慎重論
中国新聞: 9月入学拙速議論反対 小林青年局長ら岸田氏に提言
産経新聞:9月入学、自民内に慎重な声拡大 若手議員ら60人が慎重対応要
時事通信:9月入学「拙速議論に反対」自民有志が提言
昨今、散見される9月入学制度の議論の発端は、コロナ禍による2ヶ月余りの学びの遅れをどう取り戻すか、ということした。そこに一部の知事の方々がそれならば9月に遅らせたらどうかという発言があり、政府与党で幅広に議論するということになっています。
9月入学については、この約30年間、大学について議論されてきました。欧米の国々が9月入学が多いので、留学がしやすいとかギャップターム(3月に高校/高専を卒業してから入学の準備や他の学びの機会が持てる)など、18歳以上の学生に関する議論です。
しかしながら今回突発的に出てきた9月入学は、未就学児童を含む、すべての子供たちに関わる議論の結論を6月早々までに出そうという話です。現状から前倒しの9月も、後倒しの9月も、いずれにしても明らかになっている問題が多く、まず、コロナ禍による子供たちの学びを取りもどし、一日でも早く学校を安全に稼働させるために時間と政策資源を使うべきで、優先順位が違います。30本以上の法改正を伴う9月入学を議論することで、目の前の問題が先送りになり、国民の不安がこれ以上募ることを避ける必要があります。
9月入学は、現状から前倒すと、いわゆる飛び級が全学年の生徒に発生します、今の幼稚園年中さんは9月から小学校1年生、中学2年生は9月から高校生です。大人が仕事で納期が半年前倒しになるのでも大変だと思いますが、子供たちにとっては学齢区分の変更に伴う環境変化がこれまで以上に発生することを意味し、いわゆる小一プロブレムや中一ギャップ の深刻化や、引き続き特効薬が開発されていないコロナ禍再発のリスクの中で、凝縮した学習が求められます。後倒しにすれば、学びが半年遅れになります。9月入学は国際標準とは聞こえはよいものの、主要国では最も遅い7歳半で小学校入学となります。これは大変な問題で、1年学習機会が遅れると学力格差拡大、将来的に年収に影響するというデータがあります。
ご家族にとっても待機児童が大量発生すること、既に不足している学童保育の逼迫、移行期の授業料負担の増加(または学校側の授業料収入の減少)、教員や学校にとっては、教職員の働き方改革やプログラミング教育等が求められ始めたところに、さらなる負担が加わることは明らかです。私立学校にとっては経営問題にもつながります。
国としては、前倒しでも後倒しでも、30本以上の法改正が必要で、コロナ禍に必要な役所のリソースとコストが大きくそちらに取られること、移行期の授業料収入を財政で補填した場合は数兆円規模の歳出になること、今後感染症のたびに学校教育の開始を変更するのかという問題、そもそも解決できていない待機児童の問題、卒業時期が遅れることによる労働力不足の問題からGDPへの影響などがあります。
9月入学の議論自体を否定するものではありません。また、制度の問題は政治行政が意思決定をすればできるかもしれません。しかし、国民と学校現場がよりよい教育を子供達に提供することにつながるのか、丁寧に議論すべき事案です。
私個人としては、本質的に議論すべきは、授業時間や日数にとらわれた履修主義を見直し、実際に生徒の学びがどの程度進んでいるかを重視する習得主義へ転換することであり、今更入学時期を議論する状況にはないと考えています。学生にタブレット等を一人一台配布するGIGAスクール構想はその第一歩です。テクノロジーの進展により、学習履歴を分析し、一人ひとりの進捗にあった学びを提供することを可能にする。既にその動きは一部の地域で始まっています。
今は、とにかく、子供達の学びを取り戻すため、今年度・来年度、まずこの2ヶ月分の遅れをどうするかの議論が先です。夏休みや土曜日などを有効活用することで、12か月分のカリキュラムを1か月程度短縮するなど、具体的な方策を速やかに学校現場に示すこと、また、今年度の入試時期も早急に明示すべきことを引き続き求めて参ります。
提言の全文と有志議員のリストはこちらからご覧ください。
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