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著名人ニセ広告等を利用したSNS型投資詐欺対策に関する提言

著名人ニセ広告等を利用したSNS型投資詐欺対策に関する提言


令和6年5月28日
自由民主党 政務調査会
消費者問題調査会・金融調査会・情報通信戦略調査会・デジタル社会推進本部
著名人にせ広告・なりすまし等問題対策ワーキングチーム


SNS上の広告で著名人・有名企業の名前や写真を無断で利用し、主催するセミナー
や投資ビジネスへ勧誘する詐欺、いわゆる「SNS型投資詐欺」が多発しており、被害
が激増している。令和5年、全国で2271件認知、被害額は約278億円。SNSを
利用して恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」と合わせれば、被害額
は約455億円。前年比22%増加した「特殊詐欺」の被害額約453億円を超える。
1件あたりの平均被害額も1000万円超え。更に、令和6年1月~3月の「SNS型
投資詐欺」は、前年同期と比べ、認知件数は6倍以上(1700件)、被害額は約
7.5倍(219億円)に急増。被害最高額は4億5000万円にも及ぶ。無断で使用
された著名人等も、自らの正規広告に対しても信頼を失い多大な損失を被るのみなら
ず、被害者からの激しい抗議やクレームがなされ対応に追われるなど多大な悪影響が生
じている。
一方、プラットフォーム事業者の対応は十分ではない。一部には、日本のマーケット
を軽視し、信頼に基づくビジネスを展開する気がないのではないかと疑念を持たざるを
得ないような事業者もある。プラットフォーム事業者がこのような状況を放置するな
ら、「犯罪幇助を行っている」「犯罪者が儲かるための環境を提供している」と言われて
も過言ではない状況。現在の状況を抜本的に改善させるためには、プラットフォーム事
業者が背負う責任は極めて重いものがある。
そもそもソーシャルメディアは、大いなる可能性を秘め、様々なメリットをもたらす
ものである一方、社会秩序への悪影響を及ぼす可能性等に鑑みれば、官民で協力し、適
切なルール整備と体制整備を行うことがやはり必要である。
本合同ワーキングチームでは、4月19日に第1回会合を開いて以来、「これ以上被
害者を出させない」「犯罪者は許さない」「対応を行わないプラットフォーム事業者を放
置しない」という強い覚悟で、ヒアリングや議論を積み重ねてきた。今般その成果をこ
こに緊急提言として示す。政府において6月にも対策プランを策定するが、本提言の内
容を積極的に取り入れ、政府一丸で取り組まれるよう強く望む。

1. 被害に遭わせない(事前)
<緊急対策>
◆広告出稿時の事前審査や利用規約等を踏まえた適正な対応をより厳格に行うよう、
プラットフォーム事業者に対して緊急要請を実施すること。特に、直近の警察庁発
表によれば被害時の連絡ツールの9割以上がクローズドチャットであることから、
クローズドチャットを遷移先として設定している広告は原則として採用しないな
ど、SNS型投資詐欺の手口・実態を十分踏まえた事前審査の実施を求める。要請
内容の実施状況の確認を政府において確実かつ迅速に実施すること【総務省】
◆正規の広告主の利益が害されないようにする観点から、広告主からの苦情受付や広
告審査の取組について、プラットフォーム事業者への聞き取りを緊急に実施するこ
と。聞き取りを踏まえたプラットフォーム事業者における取組状況の評価及び公表
について、政府において確実かつ迅速に実施すること【経産省】
◆国民への注意喚起のための政府広報の速やかな実施【警察庁・金融庁・内閣府】
◆SNS等を利用した継続的かつ効果的な注意喚起や広報啓発の実施【金融庁・消費
者庁・警察庁・総務省・法務省】
◆金融商品取引法上の無登録業者による違法広告や違法行為の入口となることが疑わ
れる広告への対応をはじめ、相談等に寄せられた情報に基づく受け身的対応のみな
らず、関係省庁が連携し、テクノロジーも活用して、偽広告に関する情報収集や排
除をプロアクティブに実施できる体制を構築すること【金融庁、警察庁、消費者
庁、総務省、経産省】
◆金融商品取引法上の無登録業者が無料で投資情報の提供を行う旨等の広告を行った
場合であっても、その後の金融商品取引契約へ誘い込むための入口となっている場
合には、当該一連の行為を全体として捉えれば、違法な金融商品取引業に該当しう
ることを明確化し、周知すること【金融庁】


<中長期対策>
◆デジタル空間における情報流通の健全性を巡る課題に対応するため、総務省におい
て開催している有識者会議におけるプラットフォーム事業者へのヒアリングの結果
や、EUのデジタルサービス法(以下DSA法)などの国際動向も踏まえ、法整備
も視野に入れた総合的な対策を検討すること【総務省】
◆金融商品取引法上の登録業者が著名人等の許諾を得ていないにせ広告を掲載してい
る事例が確認された場合には、厳正に対処するとともに、金融商品取引法の内閣府
令等を改正することにより、登録業者について、許諾を得ないで著名人等を広告に
掲載することを禁止すること【金融庁】


2.被害を広げない(探知・特定)
<緊急対策>
◆先般成立した改正プロバイダ責任制限法(情報流通プラットフォーム対処法)に盛
り込まれた以下の内容等について、プラットフォーム事業者に対して、施行に向け
て前倒しで積極的な対応を行うよう緊急要請を行うとともに、要請に基づく実施状
況の確認を確実かつ迅速に実施すること【総務省】
―削除申出窓口及び手続の整備・公表(特に、なりすまし型の偽広告の場合におけ
る利用者に分かりやすい削除申出方法)
―削除申出への対応体制の整備・公表(特に、日本人の目から見て明らかな偽広告
が適切に対処されるよう、日本語や日本の社会・文化・法令を理解する者の十分
な配置等)
―削除申出に対する原則一定期間(例:1週間)内の判断・通知(特に、肖像権や
名誉権等の権利を侵害するなりすまし型の偽広告に関する被害者からの削除申出
への対応)
―削除基準の策定・公表や運用状況等の公表(特に、なりすまし型の偽広告に係る
削除申出件数や削除件数等の実施状況)
◆クローズドチャットに誘導した後に金銭を詐取する手口が多いことから、知らない
者のアカウントを友だち追加する際に、警告表示・同意取得をする等の対策を実施
するようSNS事業者に緊急要請を実施すること【総務省】
◆プラットフォーム事業者等が加盟する業界団体に対して、既に会員社に対して行っ
ている注意喚起にとどまらず、正規の広告主の信頼を失っていることに対する認識
や対応策の実効性について緊急に聞き取りを実施するとともに、聞き取り結果の確
実かつ迅速な確認を実施すること【経産省】
◆プラットフォーム事業者に対して、捜査の過程で把握した偽広告の出稿者のアカウ
ント情報等を提供し、削除等の対応を依頼すること【警察庁】
◆暗号資産による送金を活用する事案も見られることから、暗号資産交換業者や業界
団体による取組を促すための対策や注意喚起を実施すること【金融庁】
<短期対策>
◆情報流通プラットフォーム対処法の迅速な施行(施行日の前倒し)【総務省】
◆情報流通プラットフォーム対処法の施行に向けて、違法情報への該当性に関するガ
イドラインを迅速に策定すること【総務省】
◆「対応を行わないプラットフォーム事業者を放置しない」という強い決意を示すた
めにも、過去の幇助犯等の事例も参考に、プラットフォーム事業者が刑事責任を問
われる場合があり得る旨を、プラットフォーム事業者向けのガイドラインに盛り込
むこと【総務省・警察庁・法務省】
◆令和5年7月からのサイバー犯罪や「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」
等に対応する体制強化が確実に機能するよう取組を進めるとともに、取組の検証結
果や被害件数等の状況変化を踏まえ、更なる体制強化等も継続的に検討すること
【警察庁】
◆これまでの被害状況をみると、金融機関への振込回数が多く、長い期間を経て多額
の詐欺被害につながる場合が多いことから、金融機関において特殊詐欺やSNS型
投資・ロマンス詐欺等と思われる出金・送金等の取引を検知する仕組み等を構築
し、不正な口座情報等について警察への速やかな情報共有を行うなど、顧客の意向
や利便性との両立を踏まえた上で、金融機関による更なる取組について検討・研究
を実施すること【金融庁・警察庁】
◆インターネット広告は、広告費が日本で最大(45.5%)1になる一方で、生成
AIにより真偽の見分けがつかなくなるリスク、広告主が自らの広告の配信先を把
握しておらず、望まないサイトに広告が掲載されるリスク、多業者介在による広告
取引の不透明性など、多くの課題が存在。これらの課題解決に向け、広告主の意識
改革を始めとしたインターネット広告産業の構造転換が必要であり、官民(広告
主、広告代理店、メディア、プラットフォーム事業者)が連携し、総力を挙げて構
造転換に取り組む必要がある。近年増加するPМP(プライベート・マーケット・
プレイス)と呼ばれる、配信先媒体をコンテンツの質が保証された媒体に限定し、
広告主も限定している取組について、我が国においても進展するよう官民が連携し
て取り組むこと。また、プラットフォーム事業者による自浄作用や実効性ある対策
を促す観点から、日本アドバタイザーズ協会(JAA)をはじめとした広告主とな
る民間企業と政府が連携して、プラットフォーム上の健全な広告マーケット創出に
向けて取り組むこと。特に、広告主における媒体等の質を重視した広告の意識改
革・買い方改革、詐称不可能な形でウェブコンテンツにIDを付与するオリジネー
ター・プロファイル技術の実装等について検討すること【総務省、経産省】
<中長期対策>
◆情報流通プラットフォーム対処法の施行状況を検証した上で、仮に更なる対策が必
要と考えられる場合は、DSA法との比較により不足している事項(広告について
の透明性)への対応について検討すること【総務省】
◆発信者情報の開示の状況を検証した上で、仮に更なる対策が必要と考えられる場合
は、発信者情報の範囲の見直しについて検討すること【総務省】

3.犯罪者を逃がさない(取締り)
<緊急対策>
◆クローズドチャットを提供するSNS事業者に対し、公式アカウント作成時に本人
確認を実施するなどの不適正利用対策、警察からの照会に対する迅速な回答、照会
受理体制の構築・強化等を行うよう緊急要請を実施すること。当該要請に基づき対
応状況の確認を実施すること。併せて、広告の発信者に関する本人確認を行うため
の手法を検討すること【総務省・警察庁】
◆過去の犯罪対処例も参考に、プラットフォーム事業者に対して、幇助犯に該当する
可能性がないか、捜査協力を要請することができないか等についても適切に判断す
ること【警察庁】
◆プラットフォーム事業者に対する照会等を経て、広告主・詐欺行為を行う者・それ
らに加担する者の特定を図った上で、詐欺罪に限らず他の法令の罰則の適用も含め
て、一層効果的な取締りを実行するための方策について検討すること【警察庁】
<短期対策>
◆捜査機関によるクローズドチャットを提供するSNS事業者等からの証拠収集の在
り方(通信の秘密との関係、令状の要否等)について整理すること【総務省・警察
庁・法務省】
<中長期対策>
◆インターネット上の権利侵害事案を含め、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟にお
ける賠償額に関する裁判所における判断動向等に関する調査研究を実施すること
【法務省】


以上