提言全文:AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体) 推進のための提言
AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体) 推進のための提言
令和 7 年 10 月 24 日
AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)議員連盟
1. はじめに
○ 現在、国際秩序の基本原則が揺らぐ中、自由で開かれたインド太平洋 (FOIP)の要であり、世界の成長センターである東南アジア諸国とは、 自由で開かれ、法の支配に基づく国際秩序といった価値観を共有し、共 に守っていくべきである。
○ 気候変動政策においても、米国のパリ協定離脱や欧州の現実路線への転 換など、国際的な情勢は大きく変化している。こうした中で、揺るぎな い AZEC 原則を堅持することの真価が問われる。実際に、経済成長、エ ネルギー安全保障、脱炭素という複雑かつ困難な課題に取り組む AZEC 諸国から、日本に対する期待は極めて大きい。
○ AZEC は、一昨年に立ち上げた際に基本理念である AZEC 原則を定め、昨 年は、今後の計画としての「今後 10 年のためのアクションプラン」に 合意した。3 年目となる今年は、理念と計画を本格的に実行に移すこと で、AZEC を確実に定着させ、さらなる充実を図るべきである。
2. 25 年 5 月 AZEC 議連インドネシア・マレーシア訪問
○ 本年 5 月、AZEC 議員連盟は、インドネシアとマレーシアを訪問し、イ ンドネシア・ムアララボ地熱発電プロジェクトなどへの視察を通じて、 東南アジア諸国における脱炭素ニーズの大きさ、ならびに日本の技術 力・金融力への期待の高さを改めて実感した。
○ 本訪問では、インドネシアのプラボウォ大統領、マレーシアのアンワル 首相等との会談を通じ、AZEC が掲げる「脱炭素に向けた現実的なアプ ローチ」の重要性を再確認したところである。
○ 東南アジアは、世界の成長センターであり、我が国にとっても極めて重 要な地域である。
○ 日本と東南アジアの間には、長きにわたり培われてきた協力関係が存在 する。今こそ、その基盤の上に立ち、東南アジアとの協力を一層強化す べきである。
3. 今後の進めていくべき取組
○ 昨年 10 月の AZEC 首脳会合において採択された「今後 10 年のためのア クションプラン」に基づき、以下の取組を推進するべき。
➢ 脱炭素化に資する活動を促進するルール形成等の「AZEC ソリューシ ョン」の推進
➢ 排出量の多い電力・運輸・産業分野の脱炭素化に資するイニシアテ ィブの始動
➢ 個別プロジェクトの更なる組成と実施の加速
○ 2050 年までにアジアにおけるゼロエミッションを実現するには、4,000 兆円規模の投資が必要とされる。我が国の技術や制度を活用し、国際協 力を力強く進めていくべきである。2025 年 6 月の AZEC 議連総会におい て議論されたトランジション・ファイナンスについては、欧州の気候変 動政策が現実路線に転換しつつあることもあり、その重要性が世界的に 認識されつつある。この機を逃すこと無く、トランジション・ファイナ ンスの考え方を世界的に確立・定着させる努力を行うべき。具体的に は、国際ルールへの働きかけや、アジア・トランジション・ファイナン ス・スタディ・グループ(ATF SG)やアジア GX コンソーシアム等に おける議論を通じて、各国の NDC や長期目標に資する適切なトランジ ションにファイナンスがなされるような環境整備を行うことが必要だ。
○ ERIA の「アジア・ゼロエミッションセンター」をプラットフォームと して更なる充実を図る。省エネや ASEAN パワーグリッド構想、小型モジ ュール炉(SMR)など、AZEC パートナー国の関心やニーズが高いテーマ について、AZEC として取り上げ、具体的な課題解決に向けた調査や我 が国の貢献のあり方について検討を進めることが重要である。
○ 本年の ASEAN 議長国であるマレーシアとの間で二国間クレジット制度 (JCM)の実施に係る覚書を可能な限り早期に署名することや、民間企 業を主体としたプロジェクトの形成やクレジットの発行促進を含め、 JCM 等に基づく協力を拡大し、世界の排出削減・吸収に最大限貢献する べきである。
○ アジアの脱炭素市場を更に拡大させるため、温室効果ガス排出量の可視 化が必要。そのためには、日本が 2006 年から運用している算定・報 告・公表制度(SHK 制度)のノウハウを活かし、AZEC 各国に調和の取れ た算定報告制度の導入を後押しするべき。
○ 欧州における炭素国境調整措置(CBAM)の導入等を契機として、AZEC 各国では、カーボンプライシングの導入や検討が加速している。カーボ ンプライシングは、脱炭素の実現には効果的である一方、AZEC 原則に 謳われているような「経済成長」や「エネルギー安全保障」との同時実 現を図るためには、規制一辺倒ではなく、産業界が脱炭素化を図るため の「投資」を促す施策と一体で進めることが効果的。日本が 2026 年か ら本格導入する「成長志向型カーボンプライシング」は、先行的な脱炭 素投資と将来の規制を組み合わせた政策手法として、こうした AZEC 原 則を体現するモデルケースになり得る。成長志向型カーボンプライシン グの考え方を AZEC 各国に普及させ、アジアの脱炭素市場の更なる拡大 に繋げていくべき。
○ 政府開発援助(ODA)を通じ、民間企業を始めとする様々なステークホ ルダーと協力しながら、エネルギー移行や脱炭素化に向けた研修やマス タープラン策定等の技術協力、オファー型協力等の具体的案件の創出を 引き続き進めるべき。
○ 脱炭素の取組は、エネルギー分野以外にも広げていくことが重要であ り、農林分野については、気候や水田農業を中心とする点など ASEAN 地 域との共通点が多く、また、森林は重要な吸収源であり、その可能性が 大きい分野の一つである。このため、本年 10 月に改定された日 ASEAN みどり協力プラン等に基づき、農林分野における二国間クレジット制度
(JCM)プロジェクトを含めた協力プロジェクトを積極的に推進してい くべき。また、本年5月に策定された農林水産分野 GHG 排出削減技術海 外展開パッケージ(ミドリ・インフィニティ)に基づき、我が国が有す る食料安全保障に資する温室効果ガス排出削減技術の海外展開を後押し
するため、金融機関との連携を進めるとともに、緑の気候資金(GCF) 等の気候資金を戦略的に活用していくべき。
○ メタンを含む GHG 排出削減に貢献する高度な廃棄物発電技術の導入が進 んでおり、インドネシア等の AZEC パートナー国と協力し、廃棄物・資 源循環分野の脱炭素化を推進することが重要。また、関連して、2025 年 9 月に開催された 第3回日 ASEAN 環境気候変動閣僚級対話にて合意 された「日 ASEAN 気候環境戦略プログラム(SPACE)」に基づく「e waste、使用済自動車(ELV)及び重要鉱物に関する資源循環パートナー シップ(ARCPEEC)」を通じ、重要鉱物等の資源循環により、主要サプラ イチェーンの脱炭素化を推進していくべき。
○ 個別の脱炭素プロジェクトについては、一部が実証フェーズから本格稼 働に移行しつつある。ASEAN 各国における更なる支援が必要である。
○ また、個別のプロジェクトに係る課題を解決するために、これまでイン ドネシア、ベトナム、タイ、フィリピンと立ち上げてきた AZEC の枠組 に基づく二国間対話の枠組みに加え、今後、日本及びパートナー国のニ ーズに応じ、二国間の対話をさらに充実させていく必要がある。
4.今後の課題
○ 22 年 1 月に AZEC 構想が提唱されてから 3 年、AZEC 首脳会議や閣僚会合 等を通じて、脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障の同時達成に向け た取組を進めてきた。
○ 昨年は、AZEC 原則という大きな絵姿を共有したフェーズから一歩進 み、具体的なアクションを合意するに至った。今後は、AZEC 各国で着 実にアクションを進めるとともに、AZEC をハブとして新たな価値が生 み出される仕掛け作りを行うなど、AZEC を定着させる段階にある。
○ 米中間競争により大きな影響を受けるアジア地域において、信頼と共創 を基盤とした日本のリーダーシップへの期待は引き続き大きい。
○ 世界情勢の変化とともに様々な課題が生じる中、経済成長・脱炭素・エ ネルギー安全保障を達成し、次なるアジア地域を実現させていくべく、 様々な関連施策とも連動させながら、関係省庁が一丸となって取り組む ことが必要だ。
○ なお、上記に掲げた政策を速やかに実現させるために、グローバルサウ ス補助金の拡充など、今般の経済対策の中で必要な予算措置を講ずるこ とをあわせて提言する。

